逸話文庫:1:文藝:31

内外古今 逸話文庫 第一編

文藝

○ 一蝶と嵩谷の發句

英一蝶晩年に及び手ふるへて、月などを畫くにはぶんまはしを用ゐたるが、それしも心のまゝにもあらざりければ、
おのづからいざよふ月のぶんまはし
これは高嵩谷の話なり、嵩谷は町繪師まちゑしにて、近來の上手なり、俳諧を好み發句をよくせり、海鼠なまこの自畫賛は、望む人あれば誰にてもすみやかかきて與へあたしなり、その發句、
天地いまだひらきつくさでなまこかな
(太田南畝)