逸話文庫:1:文藝:30

内外古今 逸話文庫 第一編

文藝

○ 簡潔を學ぶ

或人あるひと、本多作左衛門が出軍中家に送りし書に
一筆啓上火の用心、おせん泣かすな、むまこやせ
また曾我五郞が知れる寺院の近火きんくわ見舞に
昨夜隣火りんくわたちまちきえ貴寺きじ安穩あんおん喜悅きえつ々々
など書けるは、文簡にして意多く義明かに、天下の至文なりと賞めけるを聞きて、げにもと感じ、直に之を學びて隣家に鴟鴞みゝづくを借りにつかはす、その文に云
づく御貸おかし下候
かきわき
づくとはみゝづくのづくにて候、みゝづくとしたゝめ候ては、長々しく相成申候あひなりまうしさうらふつきづくと相認め申候
と書きへつかはしける