内外古今 逸話文庫 第一編
文藝
○ 探幽賴朝兄弟及び景時の心を畫く
探幽齋
狩野守信、甞て賴朝
兄弟及び梶原景時の、各
心性を
顯はしたる
圖を
畫く、其圖は賴朝景時二人して
碁を
圍み、範頼義經は傍らに
侍せり、偶ま不意に電光
閃きて庭前に落雷しけり、賴朝は泰然として顏色常の如く、
傍目もふらず盤面を眺め、景時は
窃かに手を出して
碁石を
竊まんとす、義經は刀の
柄に手を掛け、梶原石を
撮みなば、只一刀に斬捨てんと身構してハタと
睨み、三人共に
秋毫も落雷に目も懸けず、
只だ範頼は耳を
掩ふて座にひれ臥したるさまを畫けり