逸話文庫:1:文藝:29

内外古今 逸話文庫 第一編

文藝

○ 探幽賴朝兄弟及び景時の心を畫く

探幽齋狩野かのう守信もりのぶ、甞て賴朝兄弟きやうだい及び梶原景時の、各心性しんせいあらはしたるゑがく、其圖は賴朝景時二人してかこみ、範頼義經は傍らにせり、偶ま不意に電光ひらめきて庭前に落雷しけり、賴朝は泰然として顏色常の如く、傍目わきめもふらず盤面を眺め、景時はひそかに手を出して碁石はまぬすまんとす、義經は刀のつかに手を掛け、梶原石をつかみなば、只一刀に斬捨てんと身構してハタとにらみ、三人共に秋毫すこしも落雷に目も懸けず、だ範頼は耳をふて座にひれ臥したるさまを畫けり