内外古今 逸話文庫 第一編
文藝
○ 秀吉螢を鳴かす
秀吉
或時紹巴に向ひ、吾
發句せん、汝
脇句せよとて
奧山にもみぢふみわけなく螢
とせられしに、紹巴は
志かとも見えぬひかりなりけり
と附け
且つ
謂て曰く、螢は鳴く
蟲に
候はずと、秀吉聞て、螢に聲なくとも吾鳴かせんとせば鳴かせずしてや有るべきと曰はれしに、細川幽齋傍より
武藏野や志のをつかねてふる雨に螢よりほかなく蟲もなし
と詠める歌の候と言ひければ秀吉大に
悅べりと、
併かし此歌は螢の聲ありと云ふ心にはあらず、雨降る夜は虫の
鳴止みて光の見ゆる螢より
外虫なしと云ふ心なり (林春齋)