逸話文庫:1:文藝:25

内外古今 逸話文庫 第一編

文藝

○ 塙檢校有眼者いうがんしやを笑ふ

はなわ檢校けんぎやう保己一ほきいちかつて人の求めに應じ、夏夜かや源氏物語を講ぜしが、たちまち狂風一ぢん吹き來て燈火とうくわせり、保己一盲目なれば之を知らず、ほ其講をつゞく、坐客ざかく茫然、しばらく講をとゞめんことをふ、保己一言ふ何の爲めぞ、曰く燈火めつして滿坐まんざ闇黑あんこくしよを見るを得ずと、保己一笑つて曰く、有眼者なんれ不自由なるやと