内外古今 逸話文庫 第一編
文藝
○ 友野霞舟詩を齎らして冥府に至る
友野霞舟名は
煥字は子玉、昌平學の敎官たり、常に詩酒
自ら
放まゝにし、
拘虗迂儒の
行を
屑しとせず、
然れども諄々人を
誨えて
倦まず、當世の名士多くその門に出づ、霞舟の詩に於ける、
錦心繡口、筆を
下せば乃ち人を驚かす、
其病で死せんとするとき、門人淺野梅堂これを
訪ふに、
猶口に
吟哦を絶たず、梅堂をして筆を
把てこれを寫さしむ、云く
性命托
㆑天身托
㆑醫、
體雖二羸疾一意安怡、
耻無
二勳業半張紙
一、
徒有二閑吟万首詩一、
禱
二福神祗
一果何益、
乞二虚靈艸木一未二全痴一、
可
㆑憐簸
二弄英雄
一殺、
造化眞成是小兒、
梅堂に
謂て云く、吾
仍多々
益辨ずと、梅堂の云く、先生詩已に足れり、
宜く
一半を
留め、
齎らして
冥府に至り以て贈りものとなすべしと、霞舟
莞爾として
瞑す (小宮山南梁)