逸話文庫:1:文藝:24

内外古今 逸話文庫 第一編

文藝

○ 友野霞舟詩をもたらして冥府に至る

友野霞舟名はくわんあざなは子玉、昌平學の敎官たり、常に詩酒みづかほしいまゝにし、拘虗かうきよ迂儒うじゆおこなひいさぎよしとせず、しかれども諄々人をおしえてまず、當世の名士多くその門に出づ、霞舟の詩に於ける、錦心繡口、筆をくだせば乃ち人を驚かす、そのやんで死せんとするとき、門人淺野梅堂これをふに、なほ口に吟哦ぎんがを絶たず、梅堂をして筆をとつてこれを寫さしむ、云く
性命托天身托醫、
體雖羸疾意安怡、

耻無勳業半張紙
徒有閑吟万首詩

福神祗果何益、
虚靈艸木全痴

憐簸弄英雄殺、
造化眞成是小兒、
梅堂にいつて云く、吾なほ多々ます〳〵べんずと、梅堂の云く、先生詩已に足れり、よろし一半いつぱんとゞめ、もたらして冥府めいふに至り以て贈りものとなすべしと、霞舟莞爾くわんじとしてめいす (小宮山南梁)