逸話文庫:1:文藝:17

内外古今 逸話文庫 第一編

文藝

三絃さみせんらうしてあらかじ海嘯つなみの來るを知る

原武太夫は岡安の門人にて、寳永の頃より三絃を以てなりたる人なり、ある日品川のあるらうきける時、三絃のおとつねにかはりたるを聞て、海嘯つなみのあるべきを知り、其席を終らず一座の友を誘ひて急に歸りけるに、ほどなく大に沓潮つなりして、浪の爲に其ほとりの家ども流失し、人も多くそんじたるよし、一時の技藝といへども、その妙に至りしを人々感じけるとぞ (太田南畝)