内外古今 逸話文庫 第一編
文藝
○ 美詩人と醜詩人――美人
アレキサンダー、ポープは、
夙に性質の温良なると、音聲の美麗なると、書法の巧妙なると、殊に紅顏玉の如きとを以て人に知らる、二十歳の時、
窈窕たる
一佳人、氏に思を寄せしかど、氏の品行方正なる、
毫もその
望に應ずべき
氣色なかりしにぞ、佳人は絶望の餘りに自殺を遂げぬ、
左れば、氏は之を
不憫に思ひ、「
薄命美人」(
An Elegy on Unfortunate Lady)と題する歌を作りて之を
吊せり、
又ポープと
殆んど名を
均ふするか、
若くは之よりも一級の上に位せる詩人バイロン
一千七百八十八年生れ一千八百二十四年死す は、十五歳の時、メリー、シヤウヲースと
名くる
一少婦に、深く
想を懸けしかど、バイロン生れ得て
跈跛なるが上に、容貌も美しからざりしにぞ、
此方の思ふに引替へて、先方は冷々淡々更に應ずべくもあらず、バイロン失望
落膽し、「
夢」と題する詩を作りて自ら慰めり、左れど、
猶戀愛の情は止み難く、其後二十一歳の時、有名なる傑作「チヤイルド、ハロルド」を著し、曲中の
欝性なる主人公ハロルドを以て己れに
擬したり、
噫々均しく詩傑中にても、容貌の醜美に由りて、
個程迄も其地位を顚倒するものかな、
原文「AnEegyno Anfortunate Lady」。誤植により改める。「Elegy to the Memory of an Unfortunate Lady」。