内外古今 逸話文庫 第一編
文藝
○ 不道德の文學者
文學家といひても、必らずしも温良寛大なる長者のみあるにあらず、中には隨分亂暴なる人もあるものなり、今英國に就て言へば、ベン、ジヨンソン
一千五百七十四年生れ一千六百三十七年死す は俳優たりし時、
不圖したる事の間違ひより、日頃
莫逆の友たる某俳優と决鬪を爲して之を殺し、クリストフアー、マーロー
一千五百六十三年(或は云ふ四年)生れ同九十三年死す は、シエクスピアーの先輩として、有名なる戯曲家なれど、
兎角酒癖ありて、友人の心を痛むる所なりしが、僅に三十歳に
垂んとする時、一日一
酒店に暴飮し、泥醉の上、懷劍を拔きて、給仕男を恐喝せしに、却て彼れの爲めに其劍を奪はれ、眼を貫かれて腦に至りしかば、何ぞ堪ゆべけん、「ア」と一聲叫びし儘、
黄泉の客と爲りたりといふ、又リチヤード、サヴ井シ
一千六百九十七年(?)生れ一千七百四十三年死す は、酒色の爲めに家産を失ひて、
乞丐同樣の生活を爲し、頗る文學社會の
躰面を汚せしのみか、
剩へ負債の爲めに
縲絏の耻を受け、獄中に死せり、猶この類の文學者――即ち亂暴なる文學者、賤むべき文學者等――は世に頗る多かるべし