内外古今 逸話文庫 第一編
文藝
○ 地獄で情婦に逢ふ
伊太利國空前絶後の詩傑ダンテ
一千二百六十五年生れ一千三百二十一年死す は、同國フロレンス府に生れたるが、兒童たりし時より、同府の或る富豪の娘ビーツライス(當時亦幼少なりき)と深く
相愛し、漸く成長するに及びて、末は偕老同穴の
契を結ばんと迄に思ひ詰めしも、
無情やビーツライスは、憂世の義理にせがまれて、或る貴族の許に縁付きしのみか、間もなく返らぬ旅路に赴きしかば、ダンテの
悲哀一方ならず、
爾來十年の
星霜を經て後、「新生活」(ヴ井タ、子オヴァ)と題する書を著はして、
切に
情婦の不幸を
弔し、又其後に至りて世に
公にせし、
千載不朽の傑作「ヂヴァイン、コメヂー」の中には、己れが地獄
巡り、
極樂巡りを爲せし
顚末を載せ、地獄に
於て思はず情婦に
邂逅ひ、
其手引に
由りて極樂に移る
件を
挿みたり、詩傑の愛情深く
且つ優さしといふべし