内外古今 逸話文庫 第一編
文藝
○ 太平記小僧の強記
中山平四郞
信名(號柳洲)は幕府の
家人なり、
幼より強記人に絶す、好みて小説を讀み、尤も太平記に熟し、徃々諳記一字を誤らず、
因て人
呼で太平記小僧といふ、和學講談所に
出役して、武家
名目抄、群書類從等の編纂に從事す、因て廣く群籍に
渉り、
特に史學
考據に長ず、曾て一古鏡を
獲るものあり、其銘に興國四年
辛巳三月
吉日、
藤從一位宣房公福壽、
不二行者授翁とあり、乃ち藤房卿の遺物なりといふ、信名一見して云く是れ
贋物なり、興國四年は
壬午にして辛巳にあらず、
坊間に行はるゝ和漢
合運に
據て誤るものなりと、又久しく世人の珍重する北畠
顯家卿の
關城書、
悉
く眞書にあらざることを發見し、其考九卷を
艸せるなど、其精博は他人の企て及ばざる所なり、 (小宮山南梁)