内外古今 逸話文庫 第一編
文藝
○ 香川景樹論語を天下第一の歌書とす
香川景樹桂園又東塢と號す、因州鳥取の人なり、少壯の比京師に出で、德大寺家の諸太夫香川氏を繼ぐ、和歌風體を一變し近世の名匠なり、景樹人に語て云、野徑の草花は痩たりとも蜂蝶來て戯れ遊ぶ、堂上の生花は美麗なれども斷て此事なし、是れ自然の理なり、和歌も又是の如く、其自然より出る聲は則ち天地を動かし鬼神を感ぜしむべし、故に凡歌人は自然の誠を養はんこと肝要なり、志か爲さんと思はゞ論語を讀むべし、論語は天下第一の歌書なり、(〓谷居士)
因幡国(いなばのくに)の呼称。現在の鳥取県東部。
伯耆国(ほうきのくに)=伯州は、現在の鳥取県中部・西部に当たる。
音「けいし」。帝都。京都を指す。
「京とは何ぞ、大なればなり。師とは何ぞ、衆(おほ)ければなり。」(春秋公羊伝)土地が広大で、人民が多く、天子の居所である意。
原文「ふうたい」と読む。古語辞書では「ふうてい」を見出し語に掲げ、和歌の表現様式・歌風と説明する。
「しか」(然)。そのように。
百五十年遡る伊藤仁斎の「最上至極宇宙第一」(『論語古義』)を思わせる言葉。
原文「艸冠/朮」の字に谷。16進文字実体参照では「��谷」となる。「艸冠/術」(チュツ)の異体字。あるいは「荒谷」か。
諸大夫(しょだいぶ)。親王家・公卿等の家政をつかさどる身分。家司(けいし)。
香川景樹は二条派の歌人香川景柄(かげもと)のもとに入門、やがて養子入りをして徳大寺家に出仕した。後に離縁されたが、香川姓はそのまま名乗った。