逸話文庫:1:文藝:01

内外古今 逸話文庫 第一編

文藝

○ 香川景樹論語を天下第一の歌書とす

香川景樹桂園けいゑん東塢とううと號す、因州鳥取の人なり、少壯のころ京師に出で、德大寺家の諸太夫しよたいふ香川氏を繼ぐ、和歌風體を一變し近世の名匠なり、景樹人にかたつて云、野徑のみち草花さうくわやせたりとも蜂蝶きたつて戯れ遊ぶ、堂上の生花いけばなは美麗なれどもたへて此事なし、是れ自然しぜんなり、和歌も又の如く、其自然よりいづる聲は則ち天地を動かし鬼神を感ぜしむべし、故におよそ歌人は自然の誠を養はんこと肝要なり、志か爲さんと思はゞ論語を讀むべし、論語は天下第一の歌書なり、(〓谷居士)