逸話文庫:1:武事:23

内外古今 逸話文庫 第一編

武事

○ 原武大夫ぶだいふ左右しやよく

武太夫盛和もりかず)は幕府留守居るすゐ與力よりきなり、天性三味線さみせんめうを得てその奧秘おくひを究め、終に岡安の系統をけ、岡安原富げんぷと稱す、官長くわんちやうばう或時あるとき原に云ふ、なんぢは年來無益むやくの遊藝にふけると聞く、武門の本務とする射を學びたるやと、原こたへて云く、いやしく武弁ぶべんの家に生まるゝもの、いかでか射を習はずして候ふべき、やつがれが弓は左右共に可なりと、某すなはち原を呼びてそのを試むるに、左右射ともに雙矢そうし雙中したれば官長も殊に其熟習をしようせりとなり  (小宮山南梁)