内外古今 逸話文庫 第一編
武事
○ 垣七郞兵衛柴田の敗を豫言す
志津ヶ嶽の
合戰に、堀久太郞秀政兵を
分ち
出さんとする時、
其臣垣七郞兵衛
押留めて
曰く、勝家の陣より、佐久間が陣に
頻に
使來ると見ゆ、
疾く
引とれとの事ならむ、
若引取らば
玄蕃本の道をば歸るべからず、
志からば
間近き所にて
戰有るべし、玄蕃引き取らずは勝家必ず來て
軍あるべし、
此二つを
出づべからず、兵を分かたずして待つべしといふに、玄蕃も
退かず柴田も進まざりしかば、勝家運
盡きたりと言ひしが、
果して敗北しけり、又志津ヶ嶽の事を
老功の人に問ひしに、勝家の
詞のごとく、玄蕃引き取らば勝利を
全うすべし、玄蕃が言の如く、勝家
押詰來らば必ず敗軍すまじきなり、兩將互に
猶豫して
勝を失ひたりとぞかたりける
(
同上)