逸話文庫:1:武事:22

内外古今 逸話文庫 第一編

武事

○ 垣七郞兵衛柴田のまけ豫言よげん

志津ヶ嶽の合戰かつせんに、堀久太郞秀政兵をわかいださんとする時、其臣そのしん垣七郞兵衛押留おしとゞめていはく、勝家の陣より、佐久間が陣にしきり使つかひ來ると見ゆ、ひきとれとの事ならむ、もし引取らば玄蕃もとの道をば歸るべからず、からば間近まぢかき所にてたゝかひ有るべし、玄蕃引き取らずは勝家必ず來ていくさあるべし、この二つをづべからず、兵を分かたずして待つべしといふに、玄蕃も退しりぞかず柴田も進まざりしかば、勝家運きたりと言ひしが、はたして敗北しけり、又志津ヶ嶽の事を老功らうこうの人に問ひしに、勝家のことばのごとく、玄蕃引き取らば勝利をまつたうすべし、玄蕃が言の如く、勝家押詰おしつめ來らば必ず敗軍すまじきなり、兩將互に猶豫いうよしてかちを失ひたりとぞかたりける  (同上