内外古今 逸話文庫 第一編
武事
○ 秀吉佐久間の謀を挫く
佐久間
玄蕃盛政、
柳瀨にて中川淸秀を
討取りける時、秀吉長濱より
一騎がけにて來たられけり、
志津ヶ嶽に到れば日
暮ぬ、
陣の相去る事二里
許なり、盛政使を以て早くも軍を寄せられ
候、相待ちて候ほどに、夜明けば
矢合仕るべしとぞ
言送りける、秀吉聞きて、
是より申さんにゆゝしくも承り候、明日いさぎよく
軍をとげ候べしと、使を返して後、吾に
怠らせ
夜討せんとの事ならん、遠き異國の
張良は
志らず、我れを
欺るべき者、日本に有りとは覺えずとて、野にも山にもかがりを
透間なく
焚て白日の
如し、佐久間は
敵人馬の
行程を急ぎ疲れたる
處へ、
すかりと押寄打破らんとおもひけるに、秀吉の
謀に夜討の
支度空しく成りにけり
(
同上)