逸話文庫:1:武事:21

内外古今 逸話文庫 第一編

武事

○ 秀吉佐久間のはかりごとくじ

佐久間玄蕃げんば盛政もりまさ柳瀨やながせにて中川淸秀を討取うちとりける時、秀吉長濱より一騎がけにて來たられけり、志津ヶ嶽しづがたけに到れば日くれぬ、ぢんの相去る事二里ばかりなり、盛政使を以て早くも軍を寄せられさうらふ、相待ちて候ほどに、夜明けば矢合やあはせつかまつるべしとぞ言送いひおくりける、秀吉聞きて、これより申さんにゆゝしくもうけたまはり候、明日いさぎよくいくさをとげ候べしと、使を返して後、吾におこたらせ夜討ようちせんとの事ならん、遠き異國の張良ちやうりようらず、我れをたばかるべき者、日本に有りとは覺えずとて、野にも山にもかがりを透間すきまなくたきて白日のごとし、佐久間はかたき人馬じんば行程かうていを急ぎ疲れたるところへ、すかりと押寄おしよせ打破らんとおもひけるに、秀吉のはかりごとに夜討の支度したくむなしく成りにけり  (同上