内外古今 逸話文庫 第一編
武事
○ 岡田十松無念流を廣む
岡田十松は近世
撃劔の
名家にして、無念流の
盛に行はれしは、此人より
昉まれり、藤田東湖少年の時、劔を岡田氏に學び、試合劍術の實用に適するを主張し、之を
水藩に行ひ、
延いて一般撃劍の
風を
變ぜしめたるは人の
稱する所にして、其
原は岡田氏の流に
出たるなり、東湖が岡田氏の
人となりを
狀せる文に
曰く、
▼ 原文返り点のみ。訓読は入力者が施したもの。
原文改行なし。訓読の関係で行が分れている。
先生爲㆑人軀幹長大、狀貌雄偉、其勇武根二於天性一、而接㆑物温醇、喜稱二人美一、其少時酷嗜㆑烟、戸賀崎氏甞從容謂二先生一曰、汝之藝精妙入㆑神、眞可㆑繼二吾業一、但憾㆑喫二無用之物一耳、先生感激不二復喫一㆑烟、戸賀崎氏又甞戒以二麴蘖之禍一、自㆑是先生飮㆑酒不㆑過二三杯一、以終二其身一、謹愼如㆑此、方今試合者盛行二於世一、名人高手不㆑乏二其人一、而至二於其獘一、則驕慢無禮以㆑力雄㆑人、毀㆑彼譽㆑我以誇二張其門戸一、無賴子弟習以成㆑風、不㆑爲二妄人一則陷二於博徒一、可二勝慨一哉、
大凡一技一能に
精熟して、人の
師表たるには、
克㆑己の
勇あるを
要す、岡田氏の
如きは師たるの
品格を
有すと云ふべし