逸話文庫:1:武事:11

内外古今 逸話文庫 第一編

武事

○ 森本義太夫組討くみうちに長ず

加藤淸正一揆いつきを攻むる時、或夜あるよ森本義太夫淸正の前にて評定いくさひやうぢやうせしに、およそ組討は力によらず候、心にて手きゝたればやすき物なりと申すを、淸正組打はあやふきもの也、勇に誇る時は必ず仕損しそんずべしといましめられぬ、其翌日淸正の眞先まつさきに森本馬を進むるところに、歩行武者かちむしや一人寄合よりあひたり、森本きこゆる馬の上手じやうずなれば、敵をよこさまにあてゝひたりと飛下とびお、立ちあがらんとする敵を引組ひきくみて、やがて首をとる、淸正に向ひ夕部ゆうべ申せしにちがといへば、淸正大にしやうせられけり (湯淺常山)