逸話文庫:1:武事:8

内外古今 逸話文庫 第一編

武事

○ 加藤淸正猛虎まうこを銃殺す

朝鮮てうせんにていづれの所にてか有りけん、淸正のぢん大山のふもとなりけるに、虎よるきたりて馬をちうに引さげ、虎落とらおとしの上を飛出とびいでけり、淸正口惜くちをし事なりといかられけるに、小姓こしやう上月かうづき左膳さぜんをも虎來てかみ殺せり、淸正あくると山を取卷とりまきて虎を狩りたるに、一疋いつぴきの虎生茂おひしげりたる萱原かやはらをかきわけ、淸正を目がけてきたる、淸正大なる岩の上に在て、鐵砲をもちねらはるゝに、其間三十けんばかり、虎淸正をにらみて立止たちどまる、人々鐵砲をそろへてうたんとするを、淸正下知げぢして打せられず、みづから打殺さんとの志なり、かくて虎間近まぢかたけり來り、口を開きて飛かゝるところをうたれしに、のど打込うちこみたれば、そこに倒れ起上おきあがらんとせしかども、痛手いたでなればつひ死しぬ (湯淺常山)

加藤清正と虎
加藤清正と虎