逸話文庫:1:武事:8
内外古今 逸話文庫 第一編
武事
○ 加藤淸正猛虎を銃殺す
朝鮮にて
何れの所にてか有りけん、淸正の
陣大山の
麓なりけるに、虎
夜來りて馬を
中に引さげ、
虎落の上を
飛出けり、淸正
口惜き事なりと
怒られけるに、
小姓上月左膳をも虎來て
咥殺せり、淸正
夜明ると山を
取卷て虎を狩りたるに、
一疋の虎
生茂りたる
萱原をかきわけ、淸正を目がけて
來る、淸正大なる岩の上に在て、鐵砲を
持ねらはるゝに、其間三十
間計、虎淸正を
睨みて
立止まる、人々鐵砲を
揃へて
搏んとするを、淸正
下知して打せられず、
自ら打殺さんとの志なり、
斯て虎
間近く
猛り來り、口を開きて飛かゝる
處をうたれしに、
咽に
打込たれば、そこに倒れ
起上らんとせしかども、
痛手なれば
終に死しぬ (湯淺常山)
原文ルビ「もうこ」。
原文「口惜」のルビ「くちおし」。
原文ルビ「こせう」。
夜が明けるとすぐに。
原文「終」のルビ「つい」。