逸話文庫:1:武事:7

内外古今 逸話文庫 第一編

武事

○ 此父にして此子あり

源平の亂に、一ノ谷の城おちいしとき、平將中納言ちうなごん知盛ともゝり兒玉黨こだまたうの爲めに追はれ、事すこぶる急なり、知盛の子武藏守むさしのかみ知章ともあきらはじめて十六、其の父のあやふきを見て、馬をせて之をへだて、兒玉のよろひを引き、力をふるふて之をる、兒玉の侍童じどう見て大に怒り、たゞちに走つて知章を刺殺さしころす、平將賴賢よりかた之を見ておもむすくひ、刃をふるつてたちどころに其の童をたふ、知章の首をいだきて自殺す、知盛こゝに於て其危きをまぬかれ、間にじようじてはしことを得たり