逸話文庫:1:武事:4

内外古今 逸話文庫 第一編

武事

○ 大村あり我軍うれひなし

戊辰ぼしんえき、德川氏の遺臣ゐしん榎本鎌次郞、軍鑑數隻をれうじて函舘はこだてるや、官軍海陸の軍をとゝのへ、屢々しば〳〵勝つのに乘じて轟擊くわうげきすといへども、勢なほ猖獗しやうけつにして容易に戡定かんていすることあたはず、こゝおいてか西郷隆盛大軍をひきゐまさはつせんとす、大村益次郎ますじらう其行をとゞめていはく、賊軍の降るあに旬日じゆんじつでんやと、隆盛至ればはたして其言の如し、隆盛嘆息たんそくして曰く、大村あり我軍事亦うれふるに足らざるなりと、けだし東北こと〴〵たひら王政わうせい一新に至りたるの功は益次郎の力なり