逸話文庫:1:武事:3

内外古今 逸話文庫 第一編

武事

○ 思ひしよりの一言勇士をはげます

山崎のいくさに、堀尾帶刀吉晴の士則武のりたけ三大夫、首を取て吉晴の前に來る、吉晴おもひしよりもかしたりとことばをかけられしかば、則武怒て首をひつさげてすゝみより、かゝる時は大將も目のくらくなる物に候、則武三大夫がとつたる首よく御覽候らへとのゝしる、吉晴もにくきやつかなといふまゝに、刀をぬいて斬られしに、かぶとほしけづりたり、則武眞一文字まいちもんじに敵の中にかけ入り、又首を取て歸る、吉晴はかならず則武は討死うちじにせんとくいおもはれし處に、則武きたれば大によろこんで、汝をさきにほめたることばしやうするするあまりにおもひしよりもといへる、がうの者にいふべき詞にあらず、わがあやまちにてこそあれ、汝が二度の先がけ大きにすぐれしよとかんぜられけり  (同上