内外古今 逸話文庫 第一編
武事
○ 思ひしよりの一言勇士を勵ます
山崎の
軍に、堀尾帶刀吉晴の士
則武三大夫、首を取て吉晴の前に來る、吉晴おもひしよりも
出かしたりと
詞をかけられしかば、則武怒て首を
提げてすゝみより、かゝる時は大將も目のくらくなる物に候、則武三大夫が
取たる首よく御覽候らへと
罵る、吉晴もにくき
奴哉といふまゝに、刀を
抽て斬られしに、
冑の
星を
削りたり、則武
眞一文字に敵の中にかけ入り、又首を取て歸る、吉晴は
必則武は
討死せんと
悔おもはれし處に、則武
來れば大に
悅んで、汝をさきにほめたる
詞賞するする
餘りにおもひしよりもといへる、
剛の者にいふべき詞にあらず、わが
過にてこそあれ、汝が二度の先がけ大きにすぐれしよと
感ぜられけり
(
同上)