逸話文庫:1:武事:1

内外古今 逸話文庫 第一編

武事

○ 堀秀政一擧いつきよ寳寺たからでらを取る

山崎合戰やまざきかつせんの時、堀久太郞秀政の士の子なにがしといへる者、明智あけちがもとに奉公ほうこうして有りしが、光秀夜のいまだあけざる内に、寳寺たからでらの山に兵をおしあぐべしとはかりしを、父のもとにつげやりて、おもひよらず敵味方となり、明日は一せんに及ばん事をなげきける、その書狀をすなはち秀政に見せたりければ、秀政夜半よはに寳寺の山におしのぼり、ぢんまちかけたりけるを、いかで知るべき、夜明よあけがたに明智が先手押寄おしよたるところを、秀政山上より鐵砲てつぱふを打かけ不意に切てかゝり、追崩おいくづして一戰に利を得たり (湯淺常山)