逸話文庫:1:文藝:40

内外古今 逸話文庫 第一編

文藝

○ 吉益東洞ひと村井椿壽ちんじゆが歸るを送る

村井椿壽は熊本の町醫まちゐなるが、京師けいしに東洞あることを聞き、獨歩どくほして京に至りえつをその門にる、日々に東洞とだんずることおよそ五十日、門人皆その狂狷きやうけん不遜ふそんおどろく、時に東洞の門人はなはだ多く、世の尊信もまた尋常じんじやうならず、その家にきたるものは貴賤とも迎送げいそうすることなし、然るに椿壽の歸るときは、東洞伏見ふしみ舟中しうちうまでこれを送りいはく、吾道わがみちたくしひとへに在りと、なみだふるつて別る