逸話文庫:1:文藝:37

内外古今 逸話文庫 第一編

文藝

○ 北齋の裸躰らたいに衣裳をよそ

葛飾北齋、一の人物をゑがくに、往々わう〳〵一日をつひやしてわづか一人いちにんを作る、あるいは一人三數日すじつわたりてるもあり、其故そのゆゑを聞くに、初め裸躰らたいゑがきて、躰格たいかくの尺度四肢しゝの長短を定め、しかのちにこれに衣裳いしやうを加へ、これを下繪したゑとして別に本圖ほんづを作る、ゆゑに右のごとく日時を費すと、さればぐわ成るに及びて、自然の恰好かつこうすることは、餘人よじんじつに及ばざる所なり、これ元人げんじん王淵わうえんほふもとづくなりとぞ