逸話文庫:1:文藝:36

内外古今 逸話文庫 第一編

文藝

○ 一蝶と馬琴と他人の印を用う

英一蝶赦に遇ひ歸鄕して後、作りし畫幅に、往々薜國球せつこくきう君受くんじゆ薜君受氏せつくんじゆし北窓中隱ほくそうちうゐんなどの印をして欵記くわんきとなす、ともに唐人の印なるを、一蝶得て其儘そのまゝ用ひて己れが印とするなり、又馬琴が乾坤二卦けんこんにくわの間に艸亭そうていを刻せし印は、馬琴一夜出行しゆつかうするに、碌々ろく〳〵足に觸るゝものあり、拾ふてこれを見れば乃ち銅印にて、二卦と艸亭とをる、馬琴よろこんで云く杜句とくもとづくなり、我業わがげふつひおほい兩間りやうかんおこなはるゝのてうなるべしと、是より乾坤一艸亭いつさうていともがうす