逸話文庫:1:文藝:08

内外古今 逸話文庫 第一編

文藝

○ 山岡明阿彌特に國文に長ず

山岡明阿彌めいあみ 名は浚明字は子亮左二右衛門と稱す 隱居して明阿彌陀佛とよぶ、狂名を大藏千文おほくらのちぶみといふ、安永九年庚子京都に遊び、其比病死す、時に十月十五日なり、江州三井寺は山岡氏の祖道阿彌の墓所はかしよあり、よりて道阿彌の墓のかたはらに葬るといふ、明阿博學にしてもつとも和文をよくす、また著述の書多し、陸奧の名所を見んとて立出る比の歌、
思ひたつ浪の數にはあらねども心をよする松がうら島
剃髪の時のたはれ歌、
けふからはころり坊主になりひさご人にかゝりて世を渡らばや
辭世、
百とせのなかばも何のうつゝかは思へば蝶の夢さへもなし

 (太田南畝