逸話文庫:1:文藝:06

内外古今 逸話文庫 第一編

文藝

○ 村田春海詩を善くす

村田春海翁は加茂翁の門人にして、其の國學に長ぜられしは人の知る所なり、殊に和歌和文は近世ちかごろ無比の名手と稱せられしが、詩文に巧みなりしを知るもの稀なり、高田與淸翁の隨筆に、春海翁の七言古一篇を載す、
醉鄕主人本財雄、
園搆樓江城東、

家僮千指列鼎食、
素封恰是擬王公

主人驕惰性且癖、
産何問計然策、

書學劍兩不成、
酒沈湎惟自適、

日入醉鄕糟丘
隨意交遊無擇、

相嘆相歡少年塲、
惜黄金供客、

花前歌舞東山春、
月下觴詠墨水濱、

自謂行樂長若此、
寧知浮雲變態新、

囊中之物一旦盡、
腰間長劍向誰親、

昔時綢繆兄與弟、
今日何異行路人

嗚呼世間守錢虜、
笑坎壈纒此身

今の國文家知らず此伎倆ありやなしや、(同上