保護者会に先立って、生徒指導部長として行った挨拶(16分)。職場での会話の一コマをうかがうことのできる資料である。
D学院の生活指導方針について保護者に説明したもの*1 で、親しかった同僚のS氏が彼の退職から5年の後、カセットテープからわざわざ起こしてCDに焼き付け、遺族の思い出にと贈られたものである。生徒にも同僚にも心に忘れがたい印象を残した彼の人柄が改めて偲ばれる。
保護者会の全体会での挨拶と生活指導方針の説明を行ったものなので、場の雰囲気と説明内容の関係から、とかくかしこまった調子になりやすいことは容易に想像される。当然ながらやや改まった口調になっているが、後半、自身の体験を引き合いに出した「黙想の家」*2 の逸話などでは、いつのまにか他の通信文同様、おのずから個性味を表したものになっていることが分かるかと思う。他にも、緊張した雰囲気をほぐすためか、少しくだけた話題を出しているところなどは調子も少し揚がっていて、彼を知る人にはその日頃の話し方を懐かしく想い起こさせるのではないだろうか。普段遣いの言葉はずっと弾みがあり、久しぶりに会った友人などにも、「よう、○○、元気か。相変わらずお前、ネクタイをしたまま寝ているのか。」「家族はどうだ。変わりないか。」など、ちょっとふざけた言葉も交えつつ節度を保ち、こちらも自然に口がほぐれて会話が楽しかった。ぶっきらぼうなのに品があり、親しみを込めた独特の話しぶりと落ち着いた物腰は、いつでもほとんど全く変わらない。それぞれの人に気の置けない口調で話しかけることのできた人である。
修道院のわきには宿泊施設の整った研修棟があった。そこは何十人も収容可能なので休日あたりは黙想会などでいつも満杯だったが、平日は利用者が少なくて閑散としていることもあった。だからそういうときには私の心安い隠れみのになっていた。〔中略〕だれか一人でも利用者がいるときには行かなかった。だだっ広い宿泊所で一人で一晩過ごすのでなければ行く気にならなかった。私はそんな贅沢をしていた。親切な修道女たちがお茶やご飯の誘いに来ても丁重に断った。(「道行」)