内外古今 逸話文庫 第一編
武事
○ 三成久秀名を惜む
石田
治部少輔三成は關ヶ原の戰に敗北し、
囚となり刑に行はるゝ時、途中にて
喉乾きて湯を求めしかば、
警衛の士、民家に入り湯を
乞ひしに湯はなし、水を飮まんやと云ふに、三成聞きて水は五臟を
損ずると聞けり、
養生の道に
非ずとて、飮まずして
行けり、三成の
命今日を限りしに、
猶養生の道を論じて
自重するは、名を
惜むに
因る
又松永
彈正久秀は、織田信長と戰ひ
敗れ、自害せんとする時、
百會に
灸して曰く、我常に
中風を
患ふ、死に
臨みて中風
發し、
四躰心に
任せずして
爲めに臆したりと云はれなば、今
迄の武勇
水泡に
屬すべし、百會は中風の灸なれば、防ぎて勇士
快よく死に
就くべしと、
乃ち百會に
炷し終て
自害す、實に名を惜む者と
謂ふべし