世説新語 巻之二
劉義慶
(『』 )
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卷二 德行 下
〔一〕
王令明〔注丨王惠、字は令明。〕ノ兄鑒頗ル好ミ二聚斂ヲ一、廣ク營ム二田業ヲ一。令明意甚ダ不レ同ジカラ。嘗テ謂ヒテレ鑒ニ曰ク、尊〔注丨尊は敬稱。〕何ゾ用ルコトヲレ田ヲ爲ルト。鑒曰ク、無クハレ田何ニ由ツテカ得ントレ食ヲ。令明曰ク、亦復何ゾ須ヒントレ得ルコトヲレ食ヲ〔注丨世祿の富貴飽煖に足る。何ぞ食を得る道を研究するに及ばん〕。
王令明の兄鑒頗る聚斂を好み、廣く田業を營む。令明意甚だ同じからず。嘗て鑒に謂ひて曰く、尊何ぞ田を用ることを爲ると。鑒曰く、田無くは何に由つてか食を得んと。令明曰く、亦復何ぞ食を得ることを須ひんと。
原文
王令明兄鑒頗好聚斂、廣營田業。令明意甚不同。嘗謂鑒曰、尊何用田爲。鑒曰、無田何由得食。令明曰、亦復何須得食。
王令明兄鑒頗好[二]聚斂[一]、廣營[二]田業[一]。令明意甚不[レ]同。嘗謂[レ]鑒曰、尊何用[レ]田爲。鑒曰、無[レ]田何由得[レ]食。令明曰、亦復何須[レ]得[レ]食。
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王令明〈NOTE 王惠、字は令明。 〉ノ兄鑒頗ル好ミ 2( 聚斂ヲ )1 、廣ク營ム 2( 田業ヲ )1 。令明意甚ダ不^同ジカラ。嘗テ謂ヒテ^鑒ニ曰ク、尊〈NOTE 尊は敬稱。 〉何ゾ|用(つく)ルコトヲ^田ヲ爲ルト。鑒曰ク、無クハ^田何ニ由ツテカ得ント^食ヲ。令明曰ク、亦復何ゾ須ヒント^得ルコトヲ^食ヲ〈NOTE 世祿の富貴飽煖に足る。何ぞ食を得る道を研究するに及ばん 〉。
注記
○王令明丨王惠、字は令明。 ○尊丨尊は敬稱。 ○亦復何ぞ食を得ることを須ひん丨世祿の富貴飽煖に足る。何ぞ食を得る道を研究するに及ばん
〔二〕
王僕射〔注丨王敬弘仕へて僕射に至る。〕ノ子恢之、被テレ召サ爲ル二祕書郞ト一。僕射爲メニ求ム二奉朝請〔注丨官名なり。朝會毎に請詔を奉ずるもの。〕ヲ一。語ツテ二恢之ニ一曰ク、祕書ハ有リレ限リ〔注丨人員の制限〕。故ニ有リレ競フコト。朝請ハ無シレ限リ。故ニ無シレ競フコト。吾欲ストレ使メント三汝ヲシテ處ラ二不競ノ之地〔注丨競爭すること無き地位。〕ニ一。太祖嘉シテ而許スレ之ヲ。
王僕射の子恢之、召されて祕書郞と爲る。僕射爲めに奉朝請を求む。恢之に語つて曰く、祕書は限り有り。故に競ふこと有り。朝請は限り無し。故に競ふこと無し。吾汝をして不競の之地に處らしめんと欲すと。太祖嘉して之を許す。
原文
王僕射子恢之、被召爲祕書郞。僕射爲求奉朝請。語恢之曰、祕書有限。故有競。朝請無限。故無競。吾欲使汝處不競之地。太祖嘉而許之。
王僕射子恢之、被[レ]召爲[二]祕書郞[一]。僕射爲求[二]奉朝請[一]。語[二]恢之[一]曰、祕書有[レ]限。故有[レ]競。朝請無[レ]限。故無[レ]競。吾欲[レ]使[三]汝處[二]不競之地[一]。太祖嘉而許[レ]之。
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王僕射〈NOTE 王敬弘仕へて僕射に至る。 〉ノ子恢之、被テ^召サ爲ル 2( 祕書郞ト )1 。僕射爲メニ求ム 2( |奉朝請(ほうてうせい)〈NOTE 官名なり。朝會毎に請詔を奉ずるもの。 〉ヲ )1 。語ツテ 2( 恢之ニ )1 曰ク、祕書ハ有リ^限リ〈NOTE 人員の制限 〉。故ニ有リ^競フコト。朝請ハ無シ^限リ。故ニ無シ^競フコト。吾欲スト^使メント 3( 汝ヲシテ處ラ 2( |不競(ふけい)ノ之地〈NOTE 競爭すること無き地位。 〉ニ )1 。太祖嘉シテ而許ス^之ヲ。
注記
○王僕射丨王敬弘仕へて僕射に至る。 ○奉朝請丨官名なり。朝會毎に請詔を奉ずるもの。 ○限り丨人員の制限 ○不競之地丨競爭すること無き地位。
〔三〕
孔中丞〔注丨孔顗、字は思遠、官は御史中丞に至る。〕在リレ都ニ。弟道存爲ル二江夏ノ内史ト一。時ニ東土旱儉、都下米貴シ。道存慮リテ二中丞ガ貧乏ヲ一、遣ム下吏ヲシテ載セテ二五百ノ米〔注丨南史に五百斛と有り。〕ヲ一餉ラ上レ之ニ。中丞呼ビテレ吏ヲ語ゲテ曰ク、我在ルコトレ彼ニ三載、去ルノ之日、不三辦-二有セ路糧ヲ一〔注丨途中の費とすべき穀物すら不足勝なりき〕。郞至ツテ未ダルニ レ幾クナラ何ニ縁ツテ得ンレ有ルコトヲ二此ノ米一。可シト二載セテ還ル一。吏白ス、自リレ古無シトレ有ルコト二載セテレ米ヲ上スレ水ニ者〔注丨米を載せ來りし船を廻らして水に遡らせること〕一。中丞不レ聽カ。竟ニ載セテ還ル二江夏ニ一。
孔中丞都に在り。弟道存江夏の内史と爲る。時に東土旱儉、都下米貴し。道存中丞が貧乏を慮りて、吏をして五百の米を載せて之に餉らしむ。中丞吏を呼びて語げて曰く、我彼に在ること三載、去るの之日、路糧を辦有せず。郞至つて未だ幾くならざるに何に縁つて此の米有ることを得ん。載せて還るべしと。吏白す、古より米を載せて水に上す者有ること無しと。中丞聽かず。竟に載せて江夏に還る。
原文
孔中丞在都。弟道存爲江夏内史。時東土旱儉、都下米貴。道存慮中丞貧乏、遣吏載五百米餉之。中丞呼吏語曰、我在彼三載、去之日、不辦有路糧。郞至未幾何縁得有此米。可載還。吏白、自古無有載米上水者。中丞不聽。竟載還江夏。
孔中丞在[レ]都。弟道存爲[二]江夏内史[一]。時東土旱儉、都下米貴。道存慮[二]中丞貧乏[一]、遣[下]吏載[二]五百米[一]餉[上レ]之。中丞呼[レ]吏語曰、我在[レ]彼三載、去之日、不[三]辦-[二]有路糧[一]。郞至未[レ]幾何縁得[レ]有[二]此米[一]。可[二]載還[一]。吏白、自[レ]古無[レ]有[二]載[レ]米上[レ]水者[一]。中丞不[レ]聽。竟載還[二]江夏[一]。
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孔中丞〈NOTE 孔顗、字は思遠、官は御史中丞に至る。 〉在リ^都ニ。弟道存爲ル 2( 江夏ノ|内史(だいし)ト )1 。時ニ東土旱儉、都下米|貴(たか)シ。道存慮リテ 2( 中丞ガ貧乏ヲ )1 、遣ム 2{ 吏ヲシテ載セテ 2( 五百ノ米〈NOTE 南史に五百斛と有り。 〉ヲ )1 |餉(おく)ラ }1 ^之ニ。中丞呼ビテ^吏ヲ語ゲテ曰ク、我在ルコト^彼ニ三載、去ルノ之日、不 3( |辦- 2( 有(べんいう)セ路糧ヲ )1 〈NOTE 途中の費とすべき穀物すら不足勝なりき 〉。郞至ツテ未ダ _ルニ_ ^幾クナラ何ニ縁ツテ得ン^有ルコトヲ 2( 此ノ米 )1 。可シト 2( 載セテ還ル )1 。吏白ス、自リ^古無シト^有ルコト 2( 載セテ^米ヲ上ス^水ニ者〈NOTE 米を載せ來りし船を廻らして水に遡らせること 〉 )1 。中丞不^聽カ。竟ニ載セテ還ル 2( 江夏ニ )1 。
注記
○孔中丞丨孔顗、字は思遠、官は御史中丞に至る。 ○五百の米丨南史に五百斛と有り。 ○路糧を辦有せず丨途中の費とすべき穀物すら不足勝なりき ○米を載せて水に上す者丨米を載せ來りし船を廻らして水に遡らせること
〔四〕
朱百年家貧シ。母以テ二冬月ヲ一亡ス。衣竝ビニ無シレ絮〔注丨殯斂用の衣類に皆綿を加ふる能はず〕。百年自リレ此レ不レ衣二綿帛ヲ一。甞テ寒時ニ就キテ二孔思遠ニ一宿ス。衣悉ク裌布〔注丨袷衣〕ナリ。飮ミテレ酒ヲ醉眠ス。思遠以テ二臥具ヲ一覆フレ之ヲ。百年初メ不レ知ラ。既ニ覺メテ引キ去ル。謂ツテ二思遠ニ一曰ク、綿定メテ奇溫ナリ〔注丨甚だ溫煖なり。〕ト。因ツテ流シテレ涕ヲ悲慟ス。思遠モ亦爲メニ感泣ス。
朱百年家貧し。母冬月を以て亡す。衣竝びに絮無し。百年此れより綿帛を衣ず。甞て寒時に孔思遠に就きて宿す。衣悉く裌布なり。酒を飮みて醉眠す。思遠臥具を以て之を覆ふ。百年初め知らず。既に覺めて引き去る。思遠に謂つて曰く、綿定めて奇溫なりと。因つて涕を流して悲慟す。思遠も亦爲めに感泣す。
原文
朱百年家貧。母以冬月亡。衣竝無絮。百年自此不衣綿帛。甞寒時就孔思遠宿。衣悉裌布。飮酒醉眠。思遠以臥具覆之。百年初不知。既覺引去。謂思遠曰、綿定奇溫。因流涕悲慟。思遠亦爲感泣。
朱百年家貧。母以[二]冬月[一]亡。衣竝無[レ]絮。百年自[レ]此不[レ]衣[二]綿帛[一]。甞寒時就[二]孔思遠[一]宿。衣悉裌布。飮[レ]酒醉眠。思遠以[二]臥具[一]覆[レ]之。百年初不[レ]知。既覺引去。謂[二]思遠[一]曰、綿定奇溫。因流[レ]涕悲慟。思遠亦爲感泣。
漢文エディタ 朱百年家貧シ。母以テ 2( 冬月ヲ )1 亡ス。衣竝ビニ無シ^絮〈NOTE 殯斂用の衣類に皆綿を加ふる能はず 〉。百年自リ^此レ不^衣 2( 綿帛ヲ )1 。甞テ寒時ニ就キテ 2( 孔思遠ニ )1 宿ス。衣悉ク|裌布(かふふ)〈NOTE 袷衣 〉ナリ。飮ミテ^酒ヲ醉眠ス。思遠以テ 2( 臥具ヲ )1 覆フ^之ヲ。百年初メ不^知ラ。既ニ覺メテ引キ去ル。謂ツテ 2( 思遠ニ )1 曰ク、綿定メテ奇溫ナリ〈NOTE 甚だ溫煖なり。 〉ト。因ツテ流シテ^涕ヲ悲慟ス。思遠モ亦爲メニ感泣ス。
注記
○衣竝びに絮無し。丨殯斂用の衣類に皆綿を加ふる能はず ○裌布丨袷衣 ○定めて奇溫なり丨甚だ溫煖なり。
〔五〕
劉凝之隱-二居ス荊州ニ一。適マ歳儉ナリ。衡陽王〔注丨義季〕、餉ル二錢十萬ヲ一。凝之大ニ喜ビ、持シテレ錢ヲ至ル二市門〔注丨町中〕ニ一。見テ下有ル二飢色一者ヲ上、悉ク分-二與ス之ニ一。俄頃ニシテ都テ盡ク。
劉凝之荊州に隱居す。適ま歳儉なり。衡陽王、錢十萬を餉る。凝之大に喜び、錢を持して市門に至る。飢色有る者を見て、悉く之に分與す。俄頃にして都て盡く。
原文
劉凝之隱居荊州。適歳儉。衡陽王、餉錢十萬。凝之大喜、持錢至市門。見有飢色者、悉分與之。俄頃都盡。
劉凝之隱-[二]居荊州[一]。適歳儉。衡陽王、餉[二]錢十萬[一]。凝之大喜、持[レ]錢至[二]市門[一]。見[下]有[二]飢色[一]者[上]、悉分-[二]與之[一]。俄頃都盡。
漢文エディタ 劉凝之隱- 2( 居ス荊州ニ )1 。適マ歳儉ナリ。衡陽王〈NOTE 義季 〉、餉ル 2( 錢十萬ヲ )1 。凝之大ニ喜ビ、持シテ^錢ヲ至ル 2( 市門〈NOTE 町中 〉ニ )1 。見テ 2{ 有ル 2( 飢色 )1 者ヲ }1 、悉ク分- 2( 與ス之ニ )1 。|俄頃(がけい)ニシテ都テ盡ク。
注記
○衡陽王丨義季 ○市門丨町中
〔六〕
齊ノ高帝〔注丨蕭道成〕鎭ス二東府ニ一。時ニ虞玩之爲リ二少府一。躡ミテレ屐ヲ造ルレ席ニ。高帝取ツテレ屐ヲ視ルニレ之ヲ、訛黑斜鋭ニシテ〔注丨色は黑變して斜にすりきれたり〕、蒵〔注丨鼻緒〕斷エテ、以テレ芒ヲ接グレ之ヲ。因ツテ問フ、卿ガ此ノ屐已ニ幾載ゾト。玩之曰ク、初メテ釋クレ褐ヲ〔注丨仕官の始なり。賤者の服を褐とす。之を釋いて官衣に改むるの義。〕時買フレ之ヲ。著クルコト已ニ三十年ナリト。高帝咨嗟ス。因ツテ爲メニ贈ルレ屐ヲ。玩之不レ受ケ。問フ二其ノ故ヲ一。答ヘテ曰ク、公ノ之賜、恩華倶ニ重シ。但シ遺簪・敝履〔注丨ふるき簪・破れたる履物。〕復タ不トレ可カラレ遺ツ。帝稱スルコトレ善ト久シウスレ之ヲ。
齊の高帝東府に鎭す。時に虞玩之少府たり。屐を躡みて席に造る。高帝屐を取つて之を視るに、訛黑斜鋭にして、蒵斷えて、芒を以て之を接ぐ。因つて問ふ、卿が此の屐已に幾載ぞと。玩之曰く、初めて褐を釋く時之を買ふ。著くること已に三十年なりと。高帝咨嗟す。因つて爲めに屐を贈る。玩之受けず。其の故を問ふ。答へて曰く、公の之賜、恩華倶に重し。但し遺簪・敝履復た遺つべからずと。帝善と稱すること之を久しうす。
原文
齊高帝鎭東府。時虞玩之爲少府。躡屐造席。高帝取屐視之、訛黑斜鋭、蒵斷、以芒接之。因問、卿此屐已幾載。玩之曰、初釋褐時買之。著已三十年。高帝咨嗟。因爲贈屐。玩之不受。問其故。答曰、公之賜、恩華倶重。但遺簪・敝履復不可遺。帝稱善久之。
齊高帝鎭[二]東府[一]。時虞玩之爲[二]少府[一]。躡[レ]屐造[レ]席。高帝取[レ]屐視[レ]之、訛黑斜鋭、蒵斷、以[レ]芒接[レ]之。因問、卿此屐已幾載。玩之曰、初釋[レ]褐時買[レ]之。著已三十年。高帝咨嗟。因爲贈[レ]屐。玩之不[レ]受。問[二]其故[一]。答曰、公之賜、恩華倶重。但遺簪・敝履復不[レ]可[レ]遺。帝稱[レ]善久[レ]之。
漢文エディタ 齊ノ高帝〈NOTE 蕭道成 〉鎭ス 2( 東府ニ )1 。時ニ虞玩之爲リ 2( 少府 )1 。|躡(ふ)ミテ^|屐(げき)ヲ|造(いた)ル^席ニ。高帝取ツテ^屐ヲ視ルニ^之ヲ、|訛黑(くわこく)斜鋭ニシテ〈NOTE 色は黑變して斜にすりきれたり 〉、|蒵(けい)〈NOTE 鼻緒 〉斷エテ、以テ^|芒(ばう)ヲ接グ^之ヲ。因ツテ問フ、卿ガ此ノ屐已ニ幾載ゾト。玩之曰ク、初メテ釋ク^|褐(かつ)ヲ〈NOTE 仕官の始なり。賤者の服を褐とす。之を釋いて官衣に改むるの義。 〉時買フ^之ヲ。著クルコト已ニ三十年ナリト。高帝咨嗟ス。因ツテ爲メニ贈ル^屐ヲ。玩之不^受ケ。問フ 2( 其ノ故ヲ )1 。答ヘテ曰ク、公ノ之賜、恩華倶ニ重シ。但シ遺簪・敝履〈NOTE ふるき簪・破れたる履物。 〉復タ不ト^可カラ^|遺(す)ツ。帝稱スルコト^善ト久シウス^之ヲ。
注記
○齊の高帝丨蕭道成 ○訛黑斜鋭丨色は黑變して斜にすりきれたり ○蒵丨鼻緒 ○褐を釋く丨仕官の始なり。賤者の服を褐とす。之を釋いて官衣に改むるの義。 ○遺簪・敝履丨ふるき簪・破れたる履物。
〔七〕
謝玄暉〔注丨名は眺、詩文を以て著る。〕好ミテ奬ム二人才ヲ一。會稽ノ孔闇、麄有リ二文筆一。未ダ下爲メニ二時人ノ一所上レ知ラ。孔稚圭〔注丨孔德璋〕甞テ令メレ草セ二讓表ヲ一、以テ示ス二玄暉ニ一。玄暉嗟歎スルコト良ヤ久シク、自ラ折リテ〔注丨紙を折りたゝむ。〕レ簡ヲ寫シレ之ヲ、語ツテ二稚圭ニ一曰ク、是ノ子聲名未ダレ立タ。應ニシ 二共ニ奬成ス一。無カレトレ惜シムコト二齒牙ノ餘論ヲ一〔注丨人の名譽を成すは唯齒牙の論に過ぎず。幸に三寸の舌を揮ふを惜む勿れと也〕。
謝玄暉好みて人才を奬む。會稽の孔闇、麄文筆有り。未だ時人の爲めに知られず。孔稚圭甞て讓表を草せしめ、以て玄暉に示す。玄暉嗟歎すること良や久しく、自ら簡を折りて之を寫し、稚圭に語つて曰く、是の子聲名未だ立たず。應に共に奬成すべし。齒牙の餘論を惜しむこと無かれと。
原文
謝玄暉好奬人才。會稽孔闇、麄有文筆。未爲時人所知。孔稚圭甞令草讓表、以示玄暉。玄暉嗟歎良久、自折簡寫之、語稚圭曰、是子聲名未立。應共奬成。無惜齒牙餘論。
謝玄暉好奬[二]人才[一]。會稽孔闇、麄有[二]文筆[一]。未[下]爲[二]時人[一]所[上レ]知。孔稚圭甞令[レ]草[二]讓表[一]、以示[二]玄暉[一]。玄暉嗟歎良久、自折[レ]簡寫[レ]之、語[二]稚圭[一]曰、是子聲名未[レ]立。應[二]共奬成[一]。無[レ]惜[二]齒牙餘論[一]。
漢文エディタ 謝玄暉〈NOTE 名は眺、詩文を以て著る。 〉好ミテ奬ム 2( 人才ヲ )1 。會稽ノ孔闇、|麄(ほゞ)有リ 2( 文筆 )1 。未ダ 2{ 爲メニ 2( 時人ノ )1 |所(れ) }1 ^知ラ。孔稚圭〈NOTE 孔德璋 〉甞テ令メ^草セ 2( 讓表ヲ )1 、以テ示ス 2( 玄暉ニ )1 。玄暉嗟歎スルコト良ヤ久シク、自ラ折リテ〈NOTE 紙を折りたゝむ。 〉^簡ヲ寫シ^之ヲ、語ツテ 2( 稚圭ニ )1 曰ク、是ノ子聲名未ダ^立タ。應ニ _シ_ 2( 共ニ奬成ス )1 。無カレト^惜シムコト 2( 齒牙ノ餘論ヲ )1 〈NOTE 人の名譽を成すは唯齒牙の論に過ぎず。幸に三寸の舌を揮ふを惜む勿れと也 〉。
注記
○謝玄暉丨名は眺、詩文を以て著る。 ○孔稚圭丨孔德璋 ○簡を折る丨紙を折りたゝむ。 ○齒牙の餘論を惜しむ無かれ丨人の名譽を成すは唯齒牙の論に過ぎず。幸に三寸の舌を揮ふを惜む勿れと也
〔八〕
陸慧曉爲ル二晉ノ熈王〔注丨太祖の第十八子、名は銶。〕ノ長史ト一。僚佐造リ見ユルニ、必ズ起チテ送ルレ之ヲ。或ヒト語ゲテ云ク、長史ハ貴重ナリ。不トレ宜シクカラ 二妄ニ自ラ謙屈ス一。陸曰ク、我ガ性惡ム二人ノ無キヲ一レ禮。不トレ容ニカラ レ不ル二以テレ禮ヲ處セ一レ人ヲ。又未ダ三嘗テ卿〔注丨卿といふは當時狎昵間の稱なりき。〕トイハ二士大夫ヲ一。或ヒト問フ二其ノ故ヲ一。陸曰ク、貴人ハ不レ可カラレ卿トイフ。而ルニ賤者ハ乃チ可ケンヤレ卿トイフ。人生何ゾ容ニケント レ立ツ二輕重ヲ於懷抱ニ一。
陸慧曉晉の熈王の長史と爲る。僚佐造り見ゆるに、必ず起ちて之を送る。或ひと語げて云く、長史は貴重なり。宜しく妄に自ら謙屈すべからずと。陸曰く、我が性人の禮無きを惡む。容に禮を以て人を處せざるべからずと。又未だ嘗て士大夫を卿といはず。或ひと其の故を問ふ。陸曰く、貴人は卿といふべからず。而るに賤者は乃ち卿といふべけんや。人生何ぞ容に輕重を於懷抱に立つべけんと。
原文
陸慧曉爲晉熈王長史。僚佐造見、必起送之。或語云、長史貴重。不宜妄自謙屈。陸曰、我性惡人無禮。不容不以禮處人。又未嘗卿士大夫。或問其故。陸曰、貴人不可卿。而賤者乃可卿。人生何容立輕重於懷抱。
陸慧曉爲[二]晉熈王長史[一]。僚佐造見、必起送[レ]之。或語云、長史貴重。不[レ]宜[二]妄自謙屈[一]。陸曰、我性惡[二]人無[一レ]禮。不[レ]容[レ]不[二]以[レ]禮處[一レ]人。又未[三]嘗卿[二]士大夫[一]。或問[二]其故[一]。陸曰、貴人不[レ]可[レ]卿。而賤者乃可[レ]卿。人生何容[レ]立[二]輕重於懷抱[一]。
漢文エディタ 陸慧曉爲ル 2( 晉ノ熈王〈NOTE 太祖の第十八子、名は銶。 〉ノ長史ト )1 。僚佐造リ見ユルニ、必ズ起チテ送ル^之ヲ。或ヒト語ゲテ云ク、長史ハ貴重ナリ。不ト^宜シク _カラ_ 2( 妄ニ自ラ謙屈ス )1 。陸曰ク、我ガ性惡ム 2( 人ノ無キヲ )1^禮。不ト^|容(まさ)ニ _カラ_ ^不ル 2( 以テ^禮ヲ處セ )1^人ヲ。又未ダ 3( 嘗テ卿〈NOTE 卿といふは當時狎昵間の稱なりき。 〉トイハ 2( 士大夫ヲ )1 。或ヒト問フ 2( 其ノ故ヲ )1 。陸曰ク、貴人ハ不^可カラ^卿トイフ。而ルニ賤者ハ乃チ可ケンヤ^卿トイフ。人生何ゾ容ニ _ケント_ ^立ツ 2( 輕重ヲ於懷抱ニ )1 。
注記
○晉の熈王丨太祖の第十八子、名は銶。 ○卿といふ丨卿といふは當時狎昵間の稱なりき。
〔九〕
阮長之爲リテ二中書郎ト一、直ス〔注丨中書省に宿直す。〕レ省ニ。夜往キ二隣省ニ一、誤ツテ着ケテレ屐ヲ出ヅレ閤ヲ。長之依リテレ事ニ自列ス〔注丨自ら状を陳じて罪を請ふ〕。門下以テ二闇夜人不ルヲ一レ知ラ、不レ受ケ二列ノ状ヲ一。長之固ク遣送シテ、曰ク、長之一生不トレ侮ラ二闇室ヲ一。
阮長之中書郎と爲りて、省に直す。夜隣省に往き、誤つて屐を着けて閤を出づ。長之事に依りて自列す。門下闇夜人知らざるを以て列の状を受けず。長之固く遣送して、曰く、長之一生闇室を侮らずと。
原文
阮長之爲中書郎、直省。夜往隣省、誤着屐出閤。長之依事自列。門下以闇夜人不知、不受列状。長之固遣送、曰、長之一生不侮闇室。
阮長之爲[二]中書郎[一]、直[レ]省。夜往[二]隣省[一]、誤着[レ]屐出[レ]閤。長之依[レ]事自列。門下以[二]闇夜人不[一レ]知、不[レ]受[二]列状[一]。長之固遣送、曰、長之一生不[レ]侮[二]闇室[一]。
漢文エディタ
阮長之爲リテ 2( 中書郎ト )1 、直ス〈NOTE 中書省に宿直す。 〉^省ニ。夜往キ 2( 隣省ニ )1 、誤ツテ着ケテ^屐ヲ出ヅ^閤ヲ。長之依リテ^事ニ自列ス〈NOTE 自ら状を陳じて罪を請ふ 〉。門下以テ 2( 闇夜人不ルヲ )1^知ラ、不^受ケ 2( 列ノ状ヲ )1 。長之固ク遣送シテ、曰ク、長之一生不ト^侮ラ 2( 闇室ヲ )1 。
注記
○省に直す丨中書省に宿直す。 ○自列す丨自ら状を陳じて罪を請ふ
〔一〇〕
裴始安〔注丨名は昭明。始安の太守となる。〕在リテレ郡ニ還ル。甚ダ貧罄ナリ〔注丨貧にして室懸罄の如くなるを曰ふ〕。世祖曰ク、裴昭明罷メテレ郡ヲ歸ルニ、遂ニ無シレ宅。我不レ諳ンゼレ書ヲ。不レ知ラ古人ノ中誰ニカ比セント。
裴始安郡に在りて還る。甚だ貧罄なり。世祖曰く、裴昭明郡を罷めて歸るに、遂に宅無し。我書を諳んぜず。知らず古人の中誰にか比せんと。
原文
裴始安在郡還。甚貧罄。世祖曰、裴昭明罷郡歸、遂無宅。我不諳書。不知古人中誰比。
裴始安在[レ]郡還。甚貧罄。世祖曰、裴昭明罷[レ]郡歸、遂無[レ]宅。我不[レ]諳[レ]書。不[レ]知古人中誰比。
漢文エディタ 裴始安〈NOTE 名は昭明。始安の太守となる。 〉在リテ^郡ニ還ル。甚ダ貧罄ナリ〈NOTE 貧にして室懸罄の如くなるを曰ふ 〉。世祖曰ク、裴昭明罷メテ^郡ヲ歸ルニ、遂ニ無シ^宅。我不^諳ンゼ^書ヲ。不^知ラ古人ノ中誰ニカ比セント。
注記
○裴始安丨名は昭明。始安の太守となる。 ○貧罄なり丨貧にして室懸罄の如くなるを曰ふ
〔一一〕
昭明太子、與二諸賢一汎ブ二舟ヲ玄圃池ニ一。有リ三盛ンニ稱スルモノ二此ノ中宜シクシト 一レ奏ス二女樂〔注丨婦人を舞踊せしめて奏する音樂。〕ヲ一。太子初メヨリ無シレ言。但シ詠ジテ二左太冲ガ招隱ノ詩〔注丨左思の作。〕ヲ一曰ク、何ゾ必ズシモ絲ト與ノミナランレ竹。山水ニ有リト二淸音一。
昭明太子、諸賢と舟を玄圃池に汎ぶ。盛んに此の中宜しく女樂を奏すべしと稱するもの有り。太子初めより言無し。但し左太冲が招隱の詩を詠じて曰く、何ぞ必ずしも絲と竹與のみならん。山水に淸音有りと。
原文
昭明太子、與諸賢汎舟玄圃池。有盛稱此中宜奏女樂。太子初無言。但詠左太冲招隱詩曰、何必絲與竹。山水有淸音。
昭明太子、與[二]諸賢[一]汎[二]舟玄圃池[一]。有[三]盛稱[二]此中宜[一レ]奏[二]女樂[一]。太子初無[レ]言。但詠[二]左太冲招隱詩[一]曰、何必絲與[レ]竹。山水有[二]淸音[一]。
漢文エディタ 昭明太子、與 2( 諸賢 )1 |汎(うか)ブ 2( 舟ヲ玄圃池ニ )1 。有リ 3( 盛ンニ稱スルモノ 2( 此ノ中宜シク _シト_ )1^奏ス 2( 女樂〈NOTE 婦人を舞踊せしめて奏する音樂。 〉ヲ )1 。太子初メヨリ無シ^言。但シ詠ジテ 2( 左太冲ガ招隱ノ詩〈NOTE 左思の作。 〉ヲ )1 曰ク、何ゾ必ズシモ絲ト與ノミナラン^竹。山水ニ有リト 2( 淸音 )1 。
注記
○女樂丨婦人を舞踊せしめて奏する音樂。 ○招隱の詩丨左思の作。
〔一二〕
張思光給假〔注丨官吏の爲に與へらるゝ休暇。東出は都に入るなり。〕ニ東ニ出ヅ。世祖問フ、卿住-二在スルカト何ノ處ニ一。答ヘテ曰ク、臣ハ陸處シテ無クレ屋、舟居シテ非ズトレ水ニ。後日、上以テ問フ二其ノ從兄思曼ニ一。思曼曰ク、融近ロ東ニ出テ、未ダレ有ラ二居止〔注丨一定の住居。〕一。權ニ牽キテ二小船ヲ於㟁上ニ一住スト。
張思光給假に東に出づ。世祖問ふ、卿何の處に住在するかと。答へて曰く、臣は陸處して屋無く、舟居して水に非ずと。後日、上以て其の從兄思曼に問ふ。思曼曰く、融近ろ東に出て、未だ居止有らず。權に小船を於㟁上に牽きて住すと。
原文
張思光給假東出。世祖問、卿住在何處。答曰、臣陸處無屋、舟居非水。後日、上以問其從兄思曼。思曼曰、融近東出、未有居止。權牽小船於㟁上住。
張思光給假東出。世祖問、卿住-[二]在何處[一]。答曰、臣陸處無[レ]屋、舟居非[レ]水。後日、上以問[二]其從兄思曼[一]。思曼曰、融近東出、未[レ]有[二]居止[一]。權牽[二]小船於㟁上[一]住。
漢文エディタ 張思光給假〈NOTE 官吏の爲に與へらるゝ休暇。東出は都に入るなり。 〉ニ東ニ出ヅ。世祖問フ、卿住- 2( 在スルカト何ノ處ニ )1 。答ヘテ曰ク、臣ハ陸處シテ無ク^屋、舟居シテ非ズト^水ニ。後日、上以テ問フ 2( 其ノ從兄思曼ニ )1 。思曼曰ク、融近ロ東ニ出テ、未ダ^有ラ 2( 居止〈NOTE 一定の住居。 〉 )1 。|權(かり)ニ牽キテ 2( 小船ヲ於㟁上ニ )1 住スト。
注記
○給假丨官吏の爲に與へらるゝ休暇。東出は都に入るなり。 ○居止丨一定の住居。
〔一三〕
明山賔初メテ臨ム二靑州ニ一。所部〔注丨管轄下〕ノ平陸縣歳儉ナリ。啓キテレ倉ヲ出シレ米ヲ、以テ贍ハス二貧民ニ一。後ノ刺史以テ二山賔ヲ一爲シ二耗闕ス〔注丨私に官倉の米を開いて官物を耗損す。〕ト一、有司追責シ、籍シテ〔注丨沒收す。〕二其ノ宅ヲ一入ルレ官ニ。山賔默シテ不二自理〔注丨辯解〕セ一、更ニ市ウテレ地ヲ造ルレ宅ヲ。
明山賔初めて靑州に臨む。所部の平陸縣歳儉なり。倉を啓きて米を出し、以て貧民に贍はす。後の刺史山賔を以て耗闕すと爲し、有司追責し、其の宅を籍して官に入る。山賔默して自理せず、更に地を市うて宅を造る。
原文
明山賔初臨靑州。所部平陸縣歳儉。啓倉出米、以贍貧民。後刺史以山賔爲耗闕、有司追責、籍其宅入官。山賔默不自理、更市地造宅。
明山賔初臨[二]靑州[一]。所部平陸縣歳儉。啓[レ]倉出[レ]米、以贍[二]貧民[一]。後刺史以[二]山賔[一]爲[二]耗闕[一]、有司追責、籍[二]其宅[一]入[レ]官。山賔默不[二]自理[一]、更市[レ]地造[レ]宅。
漢文エディタ 明山賔初メテ臨ム 2( 靑州ニ )1 。所部〈NOTE 管轄下 〉ノ平陸縣歳儉ナリ。啓キテ^倉ヲ出シ^米ヲ、以テ|贍(にぎ)ハス 2( 貧民ニ )1 。後ノ刺史以テ 2( 山賔ヲ )1 爲シ 2( |耗闕(かうけつ)ス〈NOTE 私に官倉の米を開いて官物を耗損す。 〉ト )1 、有司追責シ、籍シテ〈NOTE 沒收す。 〉 2( 其ノ宅ヲ )1 入ル^官ニ。山賔默シテ不 2( 自理〈NOTE 辯解 〉セ )1 、更ニ|市(か)ウテ^地ヲ造ル^宅ヲ。
注記
○所部丨管轄下 ○耗闕す丨私に官倉の米を開いて官物を耗損す。 ○籍す丨沒收す。 ○自理丨辯解
〔一四〕
庾子輿ノ父〔注丨父域は巴西・梓潼二郡の太守たりき。〕卒ス二官ニ巴西ニ一。奉ジテレ喪ヲ歸ル。至ルニ二巴東ノ淫預石、瞿塘〔注丨楊子江中所謂三峽の最初の峽。峽中に瞿塘といふ灘ある也。〕ノ大灘ニ一、秋水猶ホ壯ンナリ。子輿撫デレ心ヲ、長叫ス。其ノ夜水忽チ減退シ、安流ニシテ而下ル。既ニ渡レバ、水壯ンナルコト如シレ舊ノ。時人爲メニレ之ガ語テ曰ク、淫預如シ〔注丨淫預石が頭巾をかぶりたるが如くなる状を言ふ。〕レ襆ノ、本ト不レ通ゼ。瞿塘水退クハ爲メナリト二庾公ノ一。
庾子輿の父官に巴西に卒す。喪を奉じて歸る。巴東の淫預石、瞿塘の大灘に至るに、秋水猶ほ壯んなり。子輿心を撫で、長叫す。其の夜水忽ち減退し、安流にして下る。既に渡れば、水壯んなること舊のごとし。時人之が爲めに語て曰く、淫預襆の如し、本と通ぜず。瞿塘水退くは庾公の爲めなりと。
原文
庾子輿父卒官巴西。奉喪歸。至巴東淫預石、瞿塘大灘、秋水猶壯。子輿撫心、長叫。其夜水忽減退、安流而下。既渡、水壯如舊。時人爲之語曰、淫預如襆、本不通。瞿塘水退爲庾公。
庾子輿父卒[二]官巴西[一]。奉[レ]喪歸。至[二]巴東淫預石、瞿塘大灘[一]、秋水猶壯。子輿撫[レ]心、長叫。其夜水忽減退、安流而下。既渡、水壯如[レ]舊。時人爲[レ]之語曰、淫預如[レ]襆、本不[レ]通。瞿塘水退爲[二]庾公[一]。
漢文エディタ 庾子輿ノ父〈NOTE 父域は巴西・|梓潼(しとう)二郡の太守たりき。 〉卒ス 2( 官ニ巴西ニ )1 。奉ジテ^喪ヲ歸ル。至ルニ 2( 巴東ノ淫預石、瞿塘〈NOTE 楊子江中所謂三峽の最初の峽。峽中に瞿塘といふ灘ある也。 〉ノ|大灘(だいだん)ニ )1 、秋水猶ホ壯ンナリ。子輿撫デ^|心(むね)ヲ、長叫ス。其ノ夜水忽チ減退シ、安流ニシテ而下ル。既ニ渡レバ、水壯ンナルコト如シ^|舊(もと)ノ。時人爲メニ^之ガ語テ曰ク、淫預如シ〈NOTE 淫預石が頭巾をかぶりたるが如くなる状を言ふ。 〉^|襆(ぼく)ノ、本ト不^通ゼ。瞿塘水退クハ爲メナリト 2( 庾公ノ )1 。
注記
○庾子輿の父丨父域は巴西・梓潼二郡の太守たりき。 ○淫預石、瞿塘丨楊子江中所謂三峽の最初の峽。峽中に瞿塘といふ灘ある也。 ○淫預襆の如し丨淫預石が頭巾をかぶりたるが如くなる状を言ふ。
〔一五〕
傅茂遠〔注丨名は昭。〕泊然トシテ靜處シ、不二妄ニ交遊セ一。袁司徒〔注丨袁粲司徒の官たり。〕毎ニレ經ル二其ノ戸ヲ一、輒チ歎ジテ曰ク、經レバ二其ノ戸ヲ一、寂トシテ若シレ無キガレ人。披ケバ二其ノ帷ヲ一、其ノ人斯ニ在リ。豈ニ得ンヤレ非ザルコトヲ二名賢ニ一。
傅茂遠泊然として靜處し、妄に交遊せず。袁司徒其の戸を經る毎に、輒ち歎じて曰く、其の戸を經れば、寂として人無きがごとし。其の帷を披けば、其の人斯に在り。豈に名賢に非ざることを得んや。
原文
傅茂遠泊然靜處、不妄交遊。袁司徒毎經其戸、輒歎曰、經其戸、寂若無人。披其帷、其人斯在。豈得非名賢。
傅茂遠泊然靜處、不[二]妄交遊[一]。袁司徒毎[レ]經[二]其戸[一]、輒歎曰、經[二]其戸[一]、寂若[レ]無[レ]人。披[二]其帷[一]、其人斯在。豈得[レ]非[二]名賢[一]。
漢文エディタ |傅茂遠(ふもゑん)〈NOTE 名は昭。 〉泊然トシテ靜處シ、不 2( 妄ニ交遊セ )1 。袁司徒〈NOTE 袁粲司徒の官たり。 〉毎ニ^經ル 2( 其ノ戸ヲ )1 、輒チ歎ジテ曰ク、經レバ 2( 其ノ戸ヲ )1 、寂トシテ若シ^無キガ^人。披ケバ 2( 其ノ帷ヲ )1 、其ノ人斯ニ在リ。豈ニ得ンヤ^非ザルコトヲ 2( 名賢ニ )1 。
注記
○傅茂遠丨名は昭。 ○袁司徒丨袁粲司徒の官たり。
〔一六〕
顧常侍〔注丨名は協、字は正禮。〕淸介ニシテ持スレ操ヲ。爲ル二廷尉正ト一。時ニ冬ニシテ服單薄ナリ。寺卿〔注丨大常寺卿〕蔡子度謂ツテレ人ニ曰ク、我欲ス下解イテ二身上ノ襦〔注丨腰までの短衣。〕ヲ一與ヘント中顧郎ニ上。恐ラクハ顧郎難ンズル二衣食ヲ一者〔注丨苟も取らざる人物の義。〕ナラント。竟ニ不二敢ヘテ遺ラ一レ之ヲ。
顧常侍淸介にして操を持す。廷尉正と爲る。時に冬にして服單薄なり。寺卿蔡子度人に謂つて曰く、我身上の襦を解いて顧郎に與へんと欲す。恐らくは顧郎衣食を難んずる者ならんと。竟に敢へて之を遺らず。
原文
顧常侍淸介持操。爲廷尉正。時冬服單薄。寺卿蔡子度謂人曰、我欲解身上襦與顧郎。恐顧郎難衣食者。竟不敢遺之。
顧常侍淸介持[レ]操。爲[二]廷尉正[一]。時冬服單薄。寺卿蔡子度謂[レ]人曰、我欲[下]解[二]身上襦[一]與[中]顧郎[上]。恐顧郎難[二]衣食[一]者。竟不[二]敢遺[一レ]之。
漢文エディタ 顧常侍〈NOTE 名は協、字は正禮。 〉淸介ニシテ持ス^操ヲ。爲ル 2( 廷尉正ト )1 。時ニ冬ニシテ服單薄ナリ。寺卿〈NOTE 大常寺卿 〉|蔡子度(さいしたく)謂ツテ^人ニ曰ク、我欲ス 2{ 解イテ 2( 身上ノ襦〈NOTE 腰までの短衣。 〉ヲ )1 與ヘント ┤顧郎ニ }1 。恐ラクハ顧郎難ンズル 2( 衣食ヲ )1 者〈NOTE 苟も取らざる人物の義。 〉ナラント。竟ニ不 2( 敢ヘテ遺ラ )1^之ヲ。
注記
○顧常侍丨名は協、字は正禮。 ○寺卿丨大常寺卿 ○襦丨腰までの短衣。 ○衣食を難んずる者丨苟も取らざる人物の義。
〔一七〕
李德林ガ父校書亡ス。時ニ正ニ嚴冬ナルニ、單衰〔注丨單衣の喪服〕・徒跣シ、自ラ駕シテ二靈輿ヲ一反リ-二葬ル博陵ニ一。豪族崔諶ナル者、休假シテ還リレ鄕ニ、將ニレ赴キ-二弔セント德林ニ一。從者數十騎、稍稍ニ〔注丨漸次〕減留シ、比レ至ル二德林ガ門ニ一、纔ニ餘ス二五騎ヲ一。云フ、不トレ得レ令ムルコトヲ三李生ヲシテ怪シマ二人ノ熏灼〔注丨富貴權勢の盛なる事。〕ヲ一。
李德林が父校書亡す。時に正に嚴冬なるに、單衰・徒跣し、自ら靈輿を駕して博陵に反り葬る。豪族崔諶なる者、休假して鄕に還り、將に德林に赴き弔せんとす。從者數十騎、稍稍に減留し、德林が門に至る比、纔に五騎を餘す。云ふ、李生をして人の熏灼を怪しましむることを得ずと。
原文
李德林父校書亡。時正嚴冬、單衰・徒跣、自駕靈輿反葬博陵。豪族崔諶者、休假還鄕、將赴弔德林。從者數十騎、稍稍減留、比至德林門、纔餘五騎。云、不得令李生怪人熏灼。
李德林父校書亡。時正嚴冬、單衰・徒跣、自駕[二]靈輿[一]反-[二]葬博陵[一]。豪族崔諶者、休假還[レ]鄕、將[レ]赴-[二]弔德林[一]。從者數十騎、稍稍減留、比[レ]至[二]德林門[一]、纔餘[二]五騎[一]。云、不[レ]得[レ]令[三]李生怪[二]人熏灼[一]。
漢文エディタ 李德林ガ父校書亡ス。時ニ正ニ嚴冬ナルニ、單衰〈NOTE 單衣の喪服 〉・徒跣シ、自ラ駕シテ 2( 靈輿ヲ )1 反リ- 2( 葬ル博陵ニ )1 。豪族崔諶ナル者、休假シテ還リ^鄕ニ、將ニ^赴キ- 2( 弔セント德林ニ )1 。從者數十騎、|稍稍(せう/\)ニ〈NOTE 漸次 〉減留シ、比^至ル 2( 德林ガ門ニ )1 、纔ニ餘ス 2( 五騎ヲ )1 。云フ、不ト^得^令ムルコトヲ 3( 李生ヲシテ怪シマ 2( 人ノ|熏灼(くんしやく)〈NOTE 富貴權勢の盛なる事。 〉ヲ )1 。
注記
○單衰丨單衣の喪服 ○稍稍に丨漸次 ○熏灼丨富貴權勢の盛なる事。
〔一八〕
李汧公〔注丨名は勉、字は元卿。〕少クシテ貧シ。客-二遊シ梁・宋ニ一、與二諸生一共ニス二逆旅〔注丨宿舎〕ヲ一。諸生〔注丨一書生なり。〕病ミテ且ニレ死セント。出シテ二白金ヲ一語ゲテレ公ニ曰ク、左右無シ二知ル者一。幸ハクハ君以テレ此ヲ葬リレ我ヲ、餘ラバ則チ君自ラ取レトレ之ヲ。公許スレ之ヲ。既ニ葬リ、密カニ置ク二餘金ヲ棺ノ下ニ一。後ニ其ノ家ノモノ來リ謁ス。共ニ啓キレ墓ヲ、出シテレ金ヲ付スレ之ニ。
李汧公少くして貧し。梁・宋に客遊し、諸生と逆旅を共にす。諸生病みて且に死せんとす。白金を出して公に語げて曰く、左右知る者無し。幸はくは君此を以て我を葬り、餘らば則ち君自ら之を取れと。公之を許す。既に葬り、密かに餘金を棺の下に置く。後に其の家のもの來り謁す。共に墓を啓き、金を出して之に付す。
原文
李汧公少貧。客遊梁・宋、與諸生共逆旅。諸生病且死。出白金語公曰、左右無知者。幸君以此葬我、餘則君自取之。公許之。既葬、密置餘金棺下。後其家來謁。共啓墓、出金付之。
李汧公少貧。客-[二]遊梁・宋[一]、與[二]諸生[一]共[二]逆旅[一]。諸生病且[レ]死。出[二]白金[一]語[レ]公曰、左右無[二]知者[一]。幸君以[レ]此葬[レ]我、餘則君自取[レ]之。公許[レ]之。既葬、密置[二]餘金棺下[一]。後其家來謁。共啓[レ]墓、出[レ]金付[レ]之。
漢文エディタ 李汧公〈NOTE 名は勉、字は元卿。 〉少クシテ貧シ。客- 2( 遊シ梁・宋ニ )1 、與 2( 諸生 )1 共ニス 2( 逆旅〈NOTE 宿舎 〉ヲ )1 。諸生〈NOTE 一書生なり。 〉病ミテ且ニ^死セント。出シテ 2( 白金ヲ )1 語ゲテ^公ニ曰ク、左右無シ 2( 知ル者 )1 。|幸(ねが)ハクハ君以テ^此ヲ葬リ^我ヲ、餘ラバ則チ君自ラ取レト^之ヲ。公許ス^之ヲ。既ニ葬リ、密カニ置ク 2( 餘金ヲ棺ノ下ニ )1 。後ニ其ノ家ノモノ來リ謁ス。共ニ啓キ^墓ヲ、出シテ^金ヲ付ス^之ニ。
注記
○李汧公丨名は勉、字は元卿。 ○逆旅丨宿舎 ○諸生丨一書生なり。
〔一九〕
李師古跋扈〔注丨強梁・横恣〕スルモ、憚ツテ二杜黄裳ガ爲ルヲ一レ相、未ダ二敢ヘテ失セ一レ禮ヲ。命ジテ二一幹吏〔注丨幹事の才有る官吏。〕ニ一、寄ス二錢數千緡、并ニ氊車子〔注丨兵車〕一乘ヲ一。使者未ダ二敢ヘテ遽カニ送ラ一、於テ二宅門ニ一伺候スルコト累日ナリ。有リ二緑輿ノ出ヅル一。從婢二人、靑衣繿褸ナリ。言フ、是レ相公ノ夫人ナリト。使者遽カニ歸リテ、以テ告グ二師古ニ一。師古折キ〔注丨叛せんと欲せし謀計を中止す。〕二其ノ謀ヲ一、終身不二敢ヘテ改メ一レ節ヲ。
李師古跋扈するも、杜黄裳が相たるを憚つて、未だ敢へて禮を失せず。一幹吏に命じて、錢數千緡、并に氊車子一乘を寄す。使者未だ敢へて遽かに送らず、宅門に於て伺候すること累日なり。緑輿の出づる有り。從婢二人、靑衣繿褸なり。言ふ、是れ相公の夫人なりと。使者遽かに歸りて、以て師古に告ぐ。師古其の謀を折き、終身敢へて節を改めず。
原文
李師古跋扈、憚杜黄裳爲相、未敢失禮。命一幹吏、寄錢數千緡、并氊車子一乘。使者未敢遽送、於宅門伺候累日。有緑輿出。從婢二人、靑衣繿褸。言、是相公夫人。使者遽歸、以告師古。師古折其謀、終身不敢改節。
李師古跋扈、憚[二]杜黄裳爲[一レ]相、未[二]敢失[一レ]禮。命[二]一幹吏[一]、寄[二]錢數千緡、并氊車子一乘[一]。使者未[二]敢遽送[一]、於[二]宅門[一]伺候累日。有[二]緑輿出[一]。從婢二人、靑衣繿褸。言、是相公夫人。使者遽歸、以告[二]師古[一]。師古折[二]其謀[一]、終身不[二]敢改[一レ]節。
漢文エディタ 李師古跋扈〈NOTE 強梁・横恣 〉スルモ、憚ツテ 2( 杜黄裳ガ爲ルヲ )1^相、未ダ 2( 敢ヘテ失セ )1^禮ヲ。命ジテ 2( 一幹吏〈NOTE 幹事の才有る官吏。 〉ニ )1 、寄ス 2( 錢數千|緡(びん)、并ニ|氊車子(せんしやし)〈NOTE 兵車 〉一乘ヲ )1 。使者未ダ 2( 敢ヘテ遽カニ送ラ )1 、於テ 2( 宅門ニ )1 伺候スルコト累日ナリ。有リ 2( 緑輿ノ出ヅル )1 。從婢二人、靑衣|繿褸(らんる)ナリ。言フ、是レ相公ノ夫人ナリト。使者遽カニ歸リテ、以テ告グ 2( 師古ニ )1 。師古|折(くじ)キ〈NOTE 叛せんと欲せし謀計を中止す。 〉 2( 其ノ謀ヲ )1 、終身不 2( 敢ヘテ改メ )1^節ヲ。
注記
○跋扈丨強梁・横恣 ○幹吏丨幹事の才有る官吏。 ○氊車子丨兵車 ○謀を折く丨叛せんと欲せし謀計を中止す。
〔二〇〕
陽城〔注丨韓文公の爭臣論參照。〕歳饑ウルニ、屏ケテレ跡ヲ不レ過ギラ二隣里ニモ一。屑ニシテ〔注丨楡枝の皮を剥いで細屑とす。〕レ楡ヲ爲シレ粥ト、講論シテ不レ輟マ。有リ二奴都兒トイフモノ一、化シテ二其ノ德ニ一、亦方介・自約ス〔注丨堅確にして節約す〕。或ヒト哀レミテ二其ノ餒ウルヲ一、與フレドモ二之ニ食ヲ一、不レ納レ。後致スニ二糠覈〔注丨糠とかたむぎ〕數杯ヲ一、乃チ受ク。
陽城歳饑うるに、跡を屏けて隣里にも過ぎらず。楡を屑にして粥と爲し、講論して輟まず。奴都兒といふもの有り、其の德に化して、亦方介・自約す。或ひと其の餒うるを哀れみて、之に食を與ふれども、納れず。後糠覈數杯を致すに、乃ち受く。
原文
陽城歳饑、屏跡不過隣里。屑楡爲粥、講論不輟。有奴都兒、化其德、亦方介・自約。或哀其餒、與之食、不納。後致糠覈數杯、乃受。
陽城歳饑、屏[レ]跡不[レ]過[二]隣里[一]。屑[レ]楡爲[レ]粥、講論不[レ]輟。有[二]奴都兒[一]、化[二]其德[一]、亦方介・自約。或哀[二]其餒[一]、與[二]之食[一]、不[レ]納。後致[二]糠覈數杯[一]、乃受。
漢文エディタ 陽城〈NOTE 韓文公の爭臣論參照。 〉歳饑ウルニ、|屏(しりぞ)ケテ^跡ヲ不^過ギラ 2( 隣里ニモ )1 。|屑(くづ)ニシテ〈NOTE 楡枝の皮を剥いで細屑とす。 〉^|楡(ゆ)ヲ爲シ^粥ト、講論シテ不^輟マ。有リ 2( 奴都兒トイフモノ )1 、化シテ 2( 其ノ德ニ )1 、亦方介・自約ス〈NOTE 堅確にして節約す 〉。或ヒト哀レミテ 2( 其ノ餒ウルヲ )1 、與フレドモ 2( 之ニ食ヲ )1 、不^納レ。後致スニ 2( |糠覈(かうかく)〈NOTE 糠とかたむぎ 〉數杯ヲ )1 、乃チ受ク。
注記
○陽城丨韓文公の爭臣論參照。 ○楡を屑にす丨楡枝の皮を剥いで細屑とす。 ○方介・自約す丨堅確にして節約す ○糠覈丨糠とかたむぎ
〔二一〕
楊憑得タリレ罪ヲ〔注丨李夷簡に彈劾せらる〕。姻友無シ二敢ヘテ送ル者一。獨リ徐晦〔注丨嘗て楊が薦めし人物。〕ノミ送ツテ至ル二藍田ニ一。權載之〔注丨權德輿なり。〕謂フレ徐ニ、君誠ニ厚キモ二楊臨賀ニ一、無カラン二乃チ爲スコト一レ累ヲ乎ト。徐曰ク、晦自リ二布衣ノ時一、楊知ルコトレ我ヲ厚シ。方リテ二茲ノ流播〔注丨流し遷さる。〕ニ一、寧ロ忍ビンヤ二無クシテレ言而別ルヽニ一。有ラバレ如キ三公爲ルヽガ二姦佞ニ譛斥セ一、敢ヘテ自ラ同ジウセン二路人ニ一乎ト〔注丨權を指す。權公流播の場合にも我は路人の如く見る能はずとなり〕。載之歎ズ二其ノ長厚ヲ一。
楊憑罪を得たり。姻友敢へて送る者無し。獨り徐晦のみ送つて藍田に至る。權載之徐に謂ふ、君誠に楊臨賀に厚きも、乃ち累を爲すこと無からん乎と。徐曰く、晦布衣の時より、楊我を知ること厚し。茲の流播に方りて、寧ろ言無くして別るゝに忍びんや。公姦佞に譛斥せ爲るゝが如き有らば、敢へて自ら路人に同じうせん乎と。載之其の長厚を歎ず。
原文
楊憑得罪。姻友無敢送者。獨徐晦送至藍田。權載之謂徐、君誠厚楊臨賀、無乃爲累乎。徐曰、晦自布衣時、楊知我厚。方茲流播、寧忍無言而別。有如公爲姦佞譛斥、敢自同路人乎。載之歎其長厚。
楊憑得[レ]罪。姻友無[二]敢送者[一]。獨徐晦送至[二]藍田[一]。權載之謂[レ]徐、君誠厚[二]楊臨賀[一]、無[二]乃爲[一レ]累乎。徐曰、晦自[二]布衣時[一]、楊知[レ]我厚。方[二]茲流播[一]、寧忍[二]無[レ]言而別[一]。有[レ]如[三]公爲[二]姦佞譛斥[一]、敢自同[二]路人[一]乎。載之歎[二]其長厚[一]。
漢文エディタ 楊憑得タリ^罪ヲ〈NOTE 李夷簡に彈劾せらる 〉。姻友無シ 2( 敢ヘテ送ル者 )1 。獨リ徐晦〈NOTE 嘗て楊が薦めし人物。 〉ノミ送ツテ至ル 2( 藍田ニ )1 。權載之〈NOTE 權德輿なり。 〉謂フ^徐ニ、君誠ニ厚キモ 2( 楊臨賀ニ )1 、無カラン 2( 乃チ爲スコト )1^累ヲ乎ト。徐曰ク、晦自リ 2( 布衣ノ時 )1 、楊知ルコト^我ヲ厚シ。方リテ 2( 茲ノ流播〈NOTE 流し遷さる。 〉ニ )1 、寧ロ忍ビンヤ 2( 無クシテ^言而別ルヽニ )1 。有ラバ^如キ 3( 公爲ルヽガ 2( 姦佞ニ|譛斥(しんせき)セ )1 、敢ヘテ自ラ同ジウセン 2( 路人ニ )1 乎ト〈NOTE 權を指す。權公流播の場合にも我は路人の如く見る能はずとなり 〉。載之歎ズ 2( 其ノ長厚ヲ )1 。
注記
○罪を得丨李夷簡に彈劾せらる ○徐晦丨嘗て楊が薦めし人物。 ○權載之丨權德輿なり。 ○流播丨流し遷さる。 ○公が姦佞に譛斥せらるゝこと有らば、敢へて自ら路人に同じうせんやと。丨權を指す。權公流播の場合にも我は路人の如く見る能はずとなり
〔二二〕
羅可、性度寛宏ナリ。嘗テ有リ下竊ニ刈ル二其ノ園蔬〔注丨園中の蔬菜〕ヲ一者上。適タマ遇見スルニ、却ツテ避ケテ二草間ニ一以テ俟ツ二其ノ去ルヲ一。又有リ下攘-二殺スル〔注丨盜み殺す〕其ノ雞ヲ一者上。可攜ヘテレ壺〔注丨酒瓶〕ヲ就キレ之ニ、曰ク、與レ子同ジウスルニ二里閭ヲ一、不レ能ハ二烹テレ雞ヲ以テ待ツコト一レ子ヲ。我誠ニ自ラ愧ヅト。呼ビ二其ノ妻孥ヲ一環坐シ、盡シテレ醉ヲ而歸ル。人由リテレ是ニ相誡メテ無シレ犯スコト。
羅可、性度寛宏なり。嘗て竊に其の園蔬を刈る者有り。適たま遇見するに、却つて草間に避けて以て其の去るを俟つ。又其の雞を攘殺する者有り。可壺を攜へて之に就き、曰く、子と里閭を同じうするに、雞を烹て以て子を待つこと能はず。我誠に自ら愧づと。其の妻孥を呼び環坐し、醉を盡して歸る。人是によりて相誡めて犯すこと無し。
原文
羅可、性度寛宏。嘗有竊刈其園蔬者。適遇見、却避草間以俟其去。又有攘殺其雞者。可攜壺就之、曰、與子同里閭、不能烹雞以待子。我誠自愧。呼其妻孥環坐、盡醉而歸。人由是相誡無犯。
羅可、性度寛宏。嘗有[下]竊刈[二]其園蔬[一]者[上]。適遇見、却避[二]草間[一]以俟[二]其去[一]。又有[下]攘-[二]殺其雞[一]者[上]。可攜[レ]壺就[レ]之、曰、與[レ]子同[二]里閭[一]、不[レ]能[二]烹[レ]雞以待[一レ]子。我誠自愧。呼[二]其妻孥[一]環坐、盡[レ]醉而歸。人由[レ]是相誡無[レ]犯。
漢文エディタ 羅可、性度寛宏ナリ。嘗テ有リ 2{ 竊ニ刈ル 2( 其ノ園蔬〈NOTE 園中の蔬菜 〉ヲ )1 者 }1 。適タマ遇見スルニ、却ツテ避ケテ 2( 草間ニ )1 以テ俟ツ 2( 其ノ去ルヲ )1 。又有リ 2{ 攘- 2( 殺スル〈NOTE 盜み殺す 〉其ノ雞ヲ )1 者 }1 。可攜ヘテ^壺〈NOTE 酒瓶 〉ヲ就キ^之ニ、曰ク、與^子同ジウスルニ 2( 里閭ヲ )1 、不^能ハ 2( 烹テ^雞ヲ以テ待ツコト )1^子ヲ。我誠ニ自ラ愧ヅト。呼ビ 2( 其ノ妻孥ヲ )1 環坐シ、盡シテ^醉ヲ而歸ル。人由リテ^是ニ相誡メテ無シ^犯スコト。
注記
○園蔬丨園中の蔬菜 ○攘殺す丨盜み殺す ○壺丨酒瓶
〔二三〕
蘇長公〔注丨長公は兄の稱、蘇東坡なり。〕卜シ二居ヲ陽羨ニ一、以テ二五百緡ヲ一買フ二一宅ヲ一。將ニレ入ラントレ居ニ。偶タマ夜行キ、聞ク二老婦人ノ哭スル極メテ哀シキヲ一。公問フレ嫗ニ、何爲レゾ哀傷スルコト如キトレ是ノ。嫗言フ、舊居相傳フルコト百年、一旦訣別ス〔注丨永別を訣とす〕。所以ニ泣ク也ト。問ヘバ二其ノ居ノ所在ヲ一、正ニ五百緡モテ買ヒシ者ナリ。即チ取ツテ二屋ノ券〔注丨買受の證文〕ヲ一焚キレ之ヲ、不レ索メ二其ノ値ヲ一。遂ニ還リテ二毘陵ニ一、不二復タ買ハ一レ地ヲ。
蘇長公居を陽羨に卜し、五百緡を以て一宅を買ふ。將に居に入らんとす。偶たま夜行き、老婦人の哭する極めて哀しきを聞く。公嫗に問ふ、何爲れぞ哀傷すること是の如きと。嫗言ふ、舊居相傳ふること百年、一旦訣別す。所以に泣く也と。其の居の所在を問へば、正に五百緡もて買ひし者なり。即ち屋の券を取つて之を焚き、其の値を索めず。遂に毘陵に還りて、復た地を買はず。
原文
蘇長公卜居陽羨、以五百緡買一宅。將入居。偶夜行、聞老婦人哭極哀。公問嫗、何爲哀傷如是。嫗言、舊居相傳百年、一旦訣別。所以泣也。問其居所在、正五百緡買者。即取屋券焚之、不索其値。遂還毘陵、不復買地。
蘇長公卜[二]居陽羨[一]、以[二]五百緡[一]買[二]一宅[一]。將[レ]入[レ]居。偶夜行、聞[二]老婦人哭極哀[一]。公問[レ]嫗、何爲哀傷如[レ]是。嫗言、舊居相傳百年、一旦訣別。所以泣也。問[二]其居所在[一]、正五百緡買者。即取[二]屋券[一]焚[レ]之、不[レ]索[二]其値[一]。遂還[二]毘陵[一]、不[二]復買[一レ]地。
漢文エディタ 蘇長公〈NOTE 長公は兄の稱、蘇東坡なり。 〉卜シ 2( 居ヲ陽羨ニ )1 、以テ 2( 五百緡ヲ )1 買フ 2( 一宅ヲ )1 。將ニ^入ラント^居ニ。偶タマ夜行キ、聞ク 2( 老婦人ノ哭スル極メテ哀シキヲ )1 。公問フ^嫗ニ、何爲レゾ哀傷スルコト如キト^是ノ。嫗言フ、舊居相傳フルコト百年、一旦訣別ス〈NOTE 永別を訣とす 〉。所以ニ泣ク也ト。問ヘバ 2( 其ノ居ノ所在ヲ )1 、正ニ五百緡モテ買ヒシ者ナリ。即チ取ツテ 2( 屋ノ券〈NOTE 買受の證文 〉ヲ )1 焚キ^之ヲ、不^索メ 2( 其ノ値ヲ )1 。遂ニ還リテ 2( 毘陵ニ )1 、不 2( 復タ買ハ )1^地ヲ。
注記
○蘇長公丨長公は兄の稱、蘇東坡なり。 ○訣別す丨永別を訣とす ○屋の券丨買受の證文
言語 上
〔一〕
漢ノ哀帝問フ二鄭尚書崇〔注丨鄭崇、字は子游。〕ニ一、卿ガ門何ヲ以テ如クナルトレ市ノ。對ヘテ曰ク、臣ガ門ハ如キモレ市ノ、臣ガ心ハ如シトレ水ノ。
漢の哀帝鄭尚書崇に問ふ、卿が門何を以て市のごとくなると。對へて曰く、臣が門は市の如きも、臣が心は水の如しと。
原文
漢哀帝問鄭尚書崇、卿門何以如市。對曰、臣門如市、臣心如水。
漢哀帝問[二]鄭尚書崇[一]、卿門何以如[レ]市。對曰、臣門如[レ]市、臣心如[レ]水。
漢文エディタ 漢ノ哀帝問フ 2( 鄭尚書崇〈NOTE 鄭崇、字は子游。 〉ニ )1 、卿ガ門何ヲ以テ如クナルト^市ノ。對ヘテ曰ク、臣ガ門ハ如キモ^市ノ、臣ガ心ハ如シト^水ノ。
注記
○鄭尚書崇丨鄭崇、字は子游。
〔二〕
邊文禮見エ二袁奉高〔注丨名は閬。〕ニ一、失ス〔注丨顔を變じて兢々たり。〕二次序ヲ一。奉高曰ク、昔堯聘スルニ二許由ヲ一、靣ニ無シ〔注丨許由の顔色異ならず。〕ト二怍ヅル色一。先生何爲レゾ顛-二倒スル〔注丨促遽狼狽の貌。〕ヤト衣裳ヲ一。文禮答ヘテ曰ク、明府〔注丨貴官の義。〕初メテ臨ミ、堯德未ダレ彰ハレ。是ヲ以テ賤民顛-二倒スル衣裳ヲ一耳ト。
邊文禮袁奉高に見え、次序を失す。奉高曰く、昔堯許由を聘するに、靣に怍づる色無しと。先生何爲れぞ衣裳を顛倒するやと。文禮答へて曰く、明府初めて臨み、堯德未だ彰はれず。是を以て賤民衣裳を顛倒する耳と。
原文
邊文禮見袁奉高、失次序。奉高曰、昔堯聘許由、靣無怍色。先生何爲顛倒衣裳。文禮答曰、明府初臨、堯德未彰。是以賤民顛倒衣裳耳。
邊文禮見[二]袁奉高[一]、失[二]次序[一]。奉高曰、昔堯聘[二]許由[一]、靣無[二]怍色[一]。先生何爲顛-[二]倒衣裳[一]。文禮答曰、明府初臨、堯德未[レ]彰。是以賤民顛-[二]倒衣裳[一]耳。
漢文エディタ 邊文禮見エ 2( 袁奉高〈NOTE 名は閬。 〉ニ )1 、失ス〈NOTE 顔を變じて兢々たり。 〉 2( 次序ヲ )1 。奉高曰ク、昔堯聘スルニ 2( 許由ヲ )1 、|靣(めん)ニ無シ〈NOTE 許由の顔色異ならず。 〉ト 2( 怍ヅル色 )1 。先生何爲レゾ顛- 2( 倒スル〈NOTE 促遽狼狽の貌。 〉ヤト衣裳ヲ )1 。文禮答ヘテ曰ク、明府〈NOTE 貴官の義。 〉初メテ臨ミ、堯德未ダ^彰ハレ。是ヲ以テ賤民顛- 2( 倒スル衣裳ヲ )1 耳ト。
注記
○袁奉高丨名は閬。 ○次序を失す丨顔を變じて兢々たり。 ○怍づる色無し丨許由の顔色異ならず。 ○衣裳を顛倒す丨促遽狼狽の貌。 ○明府丨貴官の義。
〔三〕
鄭康成〔注丨鄭玄、字は康成。〕在リ二袁冀州〔注丨袁紹、字は本初。〕ノ坐ニ一。時ニ汝南ノ應劭モ亦歸ス二於袁ニ一。因ツテ起チテ自贊シテ曰ク、故ノ泰山ノ太守應仲遠、北靣シテ稱セバ二弟子ト一、何如ト。鄭笑ツテ曰ク、仲尼ノ之門、考フルニ以テス二四科〔注丨德行・言語・文學・政事。〕ヲ一。回・賜ノ之徒〔注丨顔回・端木賜等〕、不トレ稱セ二官閥ヲ一。應有リ二慚ヅル色一。
鄭康成袁冀州の坐に在り。時に汝南の應劭も亦於袁に歸す。因つて起ちて自贊して曰く、故の泰山の太守應仲遠、北靣して弟子と稱せば、何如と。鄭笑つて曰く、仲尼の之門、考ふるに四科を以てす。回・賜の之徒、官閥を稱せずと。應慚づる色有り。
原文
鄭康成在袁冀州坐。時汝南應劭亦歸於袁。因起自贊曰、故泰山太守應仲遠、北靣稱弟子、何如。鄭笑曰、仲尼之門、考以四科。回・賜之徒、不稱官閥。應有慚色。
鄭康成在[二]袁冀州坐[一]。時汝南應劭亦歸[二]於袁[一]。因起自贊曰、故泰山太守應仲遠、北靣稱[二]弟子[一]、何如。鄭笑曰、仲尼之門、考以[二]四科[一]。回・賜之徒、不[レ]稱[二]官閥[一]。應有[二]慚色[一]。
漢文エディタ 鄭康成〈NOTE 鄭玄、字は康成。 〉在リ 2( 袁冀州〈NOTE 袁紹、字は本初。 〉ノ坐ニ )1 。時ニ汝南ノ應劭モ亦歸ス 2( 於袁ニ )1 。因ツテ起チテ自贊シテ曰ク、故ノ泰山ノ太守應仲遠、北靣シテ稱セバ 2( 弟子ト )1 、何如ト。鄭笑ツテ曰ク、仲尼ノ之門、考フルニ以テス 2( 四科〈NOTE 德行・言語・文學・政事。 〉ヲ )1 。回・賜ノ之徒〈NOTE 顔回・端木賜等 〉、不ト^稱セ 2( 官閥ヲ )1 。應有リ 2( 慚ヅル色 )1 。
注記
○鄭康成丨鄭玄、字は康成。 ○袁冀州丨袁紹、字は本初。 ○四科丨德行・言語・文學・政事。 ○回・賜の徒丨顔回・端木賜等
〔四〕
曹公〔注丨魏の武帝曹操。〕以テ下楊太尉〔注丨楊彪、字は文先。〕與二袁公路〔注丨袁衡、字は公路。〕一婚スルヲ上、將ニ三誣フルニ以テセント二同逆ナルヲ一。孔文擧〔注丨孔融が字。〕聞キレ之ヲ、不シテレ及バ二朝報ニ一、往キテ見エテレ曹ニ曰ク、楊公ハ四世ノ淸德、海内ノ所ナリレ瞻ル。周書ニ、父子兄弟、罪不ト〔注丨康誥の意を引きし語なり。左傳に見ゆ。〕二相及バ一。况ンヤ以テ二袁氏ヲ一、歸ス二罪ヲ楊公ニ一。易ニ稱スルハ二積善ノ餘慶ヲ一、徒ラニ欺クレ人ヲ耳ト。曹云ク、此レ國家ノ之意ナリト〔注丨朝廷の意なり、我が意に非ずと也〕。文擧曰ク、假使成王殺サバ二召公ヲ一、周公可ケンレ得レ言フコトヲレ不トレ知ラ耶ト。
曹公楊太尉袁公路と婚するを以て、將に誣ふるに同逆なるを以てせんとす。孔文擧之を聞き、朝報に及ばずして、往きて曹に見えて曰く、楊公は四世の淸德、海内の瞻る所なり。周書に、父子兄弟、罪相及ばずと。况んや袁氏を以て、罪を楊公に歸す。易に積善の餘慶を稱するは、徒らに人を欺く耳と。曹云く、此れ國家の之意なりと。文擧曰く、假使成王召公を殺さば、周公知らずと言ふことを得べけん耶と。
原文
曹公以楊太尉與袁公路婚、將誣以同逆。孔文擧聞之、不及朝報、往見曹曰、楊公四世淸德、海内所瞻。周書、父子兄弟、罪不相及。况以袁氏、歸罪楊公。易稱積善餘慶、徒欺人耳。曹云、此國家之意。文擧曰、假使成王殺召公、周公可得言不知耶。
曹公以[下]楊太尉與[二]袁公路[一]婚[上]、將[三]誣以[二]同逆[一]。孔文擧聞[レ]之、不[レ]及[二]朝報[一]、往見[レ]曹曰、楊公四世淸德、海内所[レ]瞻。周書、父子兄弟、罪不[二]相及[一]。况以[二]袁氏[一]、歸[二]罪楊公[一]。易稱[二]積善餘慶[一]、徒欺[レ]人耳。曹云、此國家之意。文擧曰、假使成王殺[二]召公[一]、周公可[レ]得[レ]言[レ]不[レ]知耶。
漢文エディタ 曹公〈NOTE 魏の武帝曹操。 〉以テ 2{ 楊太尉〈NOTE 楊彪、字は文先。 〉與 2( 袁公路〈NOTE 袁衡、字は公路。 〉 )1 婚スルヲ }1 、將ニ 3( 誣フルニ以テセント 2( 同逆ナルヲ )1 。孔文擧〈NOTE 孔融が字。 〉聞キ^之ヲ、不シテ^及バ 2( 朝報ニ )1 、往キテ見エテ^曹ニ曰ク、楊公ハ四世ノ淸德、海内ノ所ナリ^瞻ル。周書ニ、父子兄弟、罪不ト〈NOTE 康誥の意を引きし語なり。左傳に見ゆ。 〉 2( 相及バ )1 。况ンヤ以テ 2( 袁氏ヲ )1 、歸ス 2( 罪ヲ楊公ニ )1 。易ニ稱スルハ 2( 積善ノ餘慶ヲ )1 、徒ラニ欺ク^人ヲ耳ト。曹云ク、此レ國家ノ之意ナリト〈NOTE 朝廷の意なり、我が意に非ずと也 〉。文擧曰ク、|假使(もし)成王殺サバ 2( 召公ヲ )1 、周公可ケン^得^言フコトヲ^不ト^知ラ耶ト。
注記
○曹公丨魏の武帝曹操。 ○楊太尉丨楊彪、字は文先。 ○袁公路丨袁衡、字は公路。 ○孔文擧丨孔融が字。 ○父子兄弟、罪相及ばず丨康誥の意を引きし語なり。左傳に見ゆ。 ○國家の意丨朝廷の意なり、我が意に非ずと也
〔五〕
禰衡〔注丨字は正平。〕被レテ二魏武ニ謫セ一爲ル二鼓吏ト一。正月半試ムレ鼓ヲ。衡揚ゲテレ枹〔注丨桴に同じ。太鼓のばち。〕ヲ爲ス二漁陽ノ摻檛ヲ一。淵淵トシテ〔注丨鼘に作るを正とす。鼓聲なり。〕有リ二金石ノ聲一。四坐爲メニレ之ガ改ムレ容ヲ。孔融曰ク、禰衡罪同ジ二胥靡ニ一。不ト〔注丨相從うて輕刑に坐するなり。殷の傅説が故事。胥靡にして傅巖に耕し、武丁の夢に現はれしを指すなり。〕レ能ハレ發クコト二明王ノ之夢ヲ一。魏武慚ヂテ而赦スレ之ヲ。
禰衡魏武に謫せられて鼓吏と爲る。正月半鼓を試む。衡枹を揚げて漁陽の摻檛を爲す。淵淵として金石の聲有り。四坐之が爲めに容を改む。孔融曰く、禰衡罪胥靡に同じ。明王の之夢を發くこと能はずと。魏武慚ぢて之を赦す。
原文
禰衡被魏武謫爲鼓吏。正月半試鼓。衡揚枹爲漁陽摻檛。淵淵有金石聲。四坐爲之改容。孔融曰、禰衡罪同胥靡。不能發明王之夢。魏武慚而赦之。
禰衡被[二]魏武謫[一]爲[二]鼓吏[一]。正月半試[レ]鼓。衡揚[レ]枹爲[二]漁陽摻檛[一]。淵淵有[二]金石聲[一]。四坐爲[レ]之改[レ]容。孔融曰、禰衡罪同[二]胥靡[一]。不[レ]能[レ]發[二]明王之夢[一]。魏武慚而赦[レ]之。
漢文エディタ
|禰衡(でいかう)〈NOTE 字は正平。 〉被レテ 2( 魏武ニ謫セ )1 爲ル 2( 鼓吏ト )1 。正月半試ム^鼓ヲ。衡揚ゲテ^|枹(ばち)〈NOTE 桴に同じ。太鼓のばち。 〉ヲ爲ス 2( 漁陽ノ|摻檛(さんた)ヲ )1 。淵淵トシテ〈NOTE 鼘に作るを正とす。鼓聲なり。 〉有リ 2( 金石ノ聲 )1 。四坐爲メニ^之ガ改ム^容ヲ。孔融曰ク、禰衡罪同ジ 2( |胥靡(しよび)ニ )1 。不ト〈NOTE 相從うて輕刑に坐するなり。殷の傅説が故事。胥靡にして傅巖に耕し、武丁の夢に現はれしを指すなり。 〉^能ハ^|發(ひら)クコト 2( 明王ノ之夢ヲ )1 。魏武慚ヂテ而赦ス^之ヲ。
注記
○禰衡丨字は正平。 ○枹丨桴に同じ。太鼓のばち。 ○淵淵として丨鼘に作るを正とす。鼓聲なり。 ○胥靡に同じうして、明王の夢を發くこと能はず丨相從うて輕刑に坐するなり。殷の傅説が故事。胥靡にして傅巖に耕し、武丁の夢に現はれしを指すなり。
〔六〕
潁川ノ太守髠ス〔注丨輕き罪刑の名。〕二陳仲弓ヲ一。客有リレ問フモノ二元方ニ一。府君〔注丨太守〕ハ何如ト。元方曰ク、高明ノ之君也ト。足下ノ家君〔注丨父君〕ハ何如ト。曰ク、忠臣孝子也ト。客曰ク、易ニ稱ス、二人同ジウスレバレ心ヲ、其ノ利キコト斷ツレ金ヲ。同心ノ之言ハ、其ノ臭如シト〔注丨易經繋辭〕レ蘭ノ。何ゾ有ラン下高明ノ之君ニシテ、而刑スル二忠臣孝子ヲ一者上乎ト。元方曰ク、足下ノ言何ゾ其レ謬レルヤ也。故ニ不ト二相答ヘ一。客曰ク、足下但シ因ツテレ傴ニ爲シテ〔注丨せむしを恭敬者とするの類。〕レ恭ヲ而不ルナリトレ能ハレ答フルコト。元方曰ク、昔高宗放チ〔注丨帝王世紀に見ゆ〕二孝子孝巳ヲ一、尹吉甫〔注丨周の卿也。〕ハ放チ二孝子伯奇ヲ一、董仲舒〔注丨漢の名臣。〕ハ放ツ二孝子符起ヲ一。唯ダ此ノ三君ハ高明ノ之君ナルノミ。唯ダ此ノ三子ハ忠臣孝子ナルノミト。客慚ヂテ而退ク。
潁川の太守陳仲弓を髠す。客元方に問ふもの有り。府君は何如と。元方曰く、高明の之君也と。足下の家君は何如と。曰く、忠臣孝子也と。客曰く、易に稱す、二人心を同じうすれば、其の利きこと金を斷つ。同心の之言は、其の臭蘭の如しと。何ぞ高明の之君にして、忠臣孝子を刑する者有らん乎と。元方曰く、足下の言何ぞ其れ謬れるや也。故に相答へずと。客曰く、足下但し傴に因つて恭を爲して答ふること能はざるなりと。元方曰く、昔高宗孝子孝巳を放ち、尹吉甫は孝子伯奇を放ち、董仲舒は孝子符起を放つ。唯だ此の三君は高明の之君なるのみ。唯だ此の三子は忠臣孝子なるのみと。客慚ぢて退く。
原文
潁川太守髠陳仲弓。客有問元方。府君何如。元方曰、高明之君也。足下家君何如。曰、忠臣孝子也。客曰、易稱、二人同心、其利斷金。同心之言、其臭如蘭。何有高明之君、而刑忠臣孝子者乎。元方曰、足下言何其謬也。故不相答。客曰、足下但因傴爲恭而不能答。元方曰、昔高宗放孝子孝巳、尹吉甫放孝子伯奇、董仲舒放孝子符起。唯此三君高明之君。唯此三子忠臣孝子。客慚而退。
潁川太守髠[二]陳仲弓[一]。客有[レ]問[二]元方[一]。府君何如。元方曰、高明之君也。足下家君何如。曰、忠臣孝子也。客曰、易稱、二人同[レ]心、其利斷[レ]金。同心之言、其臭如[レ]蘭。何有[下]高明之君、而刑[二]忠臣孝子[一]者[上]乎。元方曰、足下言何其謬也。故不[二]相答[一]。客曰、足下但因[レ]傴爲[レ]恭而不[レ]能[レ]答。元方曰、昔高宗放[二]孝子孝巳[一]、尹吉甫放[二]孝子伯奇[一]、董仲舒放[二]孝子符起[一]。唯此三君高明之君。唯此三子忠臣孝子。客慚而退。
漢文エディタ
潁川ノ太守|髠(こん)ス〈NOTE 輕き罪刑の名。 〉 2( 陳仲弓ヲ )1 。客有リ^問フモノ 2( 元方ニ )1 。府君〈NOTE 太守 〉ハ何如ト。元方曰ク、高明ノ之君也ト。足下ノ家君〈NOTE 父君 〉ハ何如ト。曰ク、忠臣孝子也ト。客曰ク、易ニ稱ス、二人同ジウスレバ^心ヲ、其ノ利キコト斷ツ^金ヲ。同心ノ之言ハ、其ノ|臭(か)如シト〈NOTE 易經繋辭 〉^蘭ノ。何ゾ有ラン 2{ 高明ノ之君ニシテ、而刑スル 2( 忠臣孝子ヲ )1 者 }1 乎ト。元方曰ク、足下ノ言何ゾ其レ謬レルヤ也。故ニ不ト 2( 相答ヘ )1 。客曰ク、足下但シ因ツテ^|傴(う)ニ爲シテ〈NOTE せむしを恭敬者とするの類。 〉^恭ヲ而不ルナリト^能ハ^答フルコト。元方曰ク、昔高宗放チ〈NOTE 帝王世紀に見ゆ 〉 2( 孝子孝巳ヲ )1 、尹吉甫〈NOTE 周の卿也。 〉ハ放チ 2( 孝子伯奇ヲ )1 、董仲舒〈NOTE 漢の名臣。 〉ハ放ツ 2( 孝子符起ヲ )1 。唯ダ此ノ三君ハ高明ノ之君ナルノミ。唯ダ此ノ三子ハ忠臣孝子ナルノミト。客慚ヂテ而退ク。
注記
○髠す丨輕き罪刑の名。 ○府君丨太守 ○家君丨父君 ○二人心を同じうすれば、其の利きこと金を斷つ。同心の言は其の臭蘭の如し。丨易經繋辭 ○傴に因つて恭を爲す丨せむしを恭敬者とするの類。 ○高宗は孝子孝巳を放つ丨帝王世紀に見ゆ ○尹吉甫丨周の卿也。 ○董仲舒丨漢の名臣。
〔七〕
荀慈明〔注丨後漢の荀爽。時人曰く、荀氏の八龍、慈明は無雙と。〕與二汝南ノ袁閬一相見テ、問フ二潁川ノ人士ヲ一。慈明先ヅ及ブ二諸兄ニ一。閬笑ツテ曰ク、士ハ但ダ可キ下因ル二親舊ニ一而已ナル上乎ト。慈明曰ク、足下相難ズ。依據スル者〔注丨よりどころ〕ハ何ノ經ゾト。閬曰ク、方ニ問フ二國士ヲ一。而ルニ及ブ二諸兄ニ一。是ヲ以テ尤ムルレ之ヲ耳ト。慈明曰ク、昔者祁奚〔注丨晉の大夫。〕内擧シテ不レ失ハ二其ノ子ヲ一、外擧シテ不レ失ハ二其ノ讐ヲ一。以テ爲ス二至公ト一。公旦〔注丨周公、名は旦、文王の子、武王の弟なり。〕文王ノ之詩ニ、不シテレ論ゼ二堯舜ノ之德ヲ一而頌スル二文武ヲ一者ハ、親シムノレ親ヲ之義也。春秋ノ之義ハ内ニシテ二其ノ國ヲ一而外ニス二諸夏〔注丨他の諸侯。〕ヲ一。且ツ不シテレ愛セ二其ノ親ヲ一而愛スル二他人ヲ一者ハ、不ヤレ爲サ二悖德ト一乎ト。
荀慈明汝南の袁閬與相見て、潁川の人士を問ふ。慈明先づ諸兄に及ぶ。閬笑つて曰く、士は但だ親舊に因る而已なるべき乎と。慈明曰く、足下相難ず。依據する者は何の經ぞと。閬曰く、方に國士を問ふ。而るに諸兄に及ぶ。是を以て之を尤むる耳と。慈明曰く、昔者祁奚内擧して其の子を失はず、外擧して其の讐を失はず。以て至公と爲す。公旦文王の之詩に、堯舜の之德を論ぜずして文武を頌する者は、親を親しむの之義也。春秋の之義は其の國を内にして諸夏を外にす。且つ其の親を愛せずして他人を愛する者は、悖德と爲さずや乎と。
原文
荀慈明與汝南袁閬相見、問潁川人士。慈明先及諸兄。閬笑曰、士但可因親舊而已乎。慈明曰、足下相難。依據者何經。閬曰、方問國士。而及諸兄。是以尤之耳。慈明曰、昔者祁奚内擧不失其子、外擧不失其讐。以爲至公。公旦文王之詩、不論堯舜之德而頌文武者、親親之義也。春秋之義内其國而外諸夏。且不愛其親而愛他人者、不爲悖德乎。
荀慈明與[二]汝南袁閬[一]相見、問[二]潁川人士[一]。慈明先及[二]諸兄[一]。閬笑曰、士但可[下]因[二]親舊[一]而已[上]乎。慈明曰、足下相難。依據者何經。閬曰、方問[二]國士[一]。而及[二]諸兄[一]。是以尤[レ]之耳。慈明曰、昔者祁奚内擧不[レ]失[二]其子[一]、外擧不[レ]失[二]其讐[一]。以爲[二]至公[一]。公旦文王之詩、不[レ]論[二]堯舜之德[一]而頌[二]文武[一]者、親[レ]親之義也。春秋之義内[二]其國[一]而外[二]諸夏[一]。且不[レ]愛[二]其親[一]而愛[二]他人[一]者、不[レ]爲[二]悖德[一]乎。
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荀慈明〈NOTE 後漢の荀爽。時人曰く、荀氏の八龍、慈明は無雙と。 〉與 2( 汝南ノ袁閬 )1 相見テ、問フ 2( 潁川ノ人士ヲ )1 。慈明先ヅ及ブ 2( 諸兄ニ )1 。閬笑ツテ曰ク、士ハ但ダ可キ 2{ 因ル 2( 親舊ニ )1 而已ナル }1 乎ト。慈明曰ク、足下相難ズ。依據スル者〈NOTE よりどころ 〉ハ何ノ經ゾト。閬曰ク、方ニ問フ 2( 國士ヲ )1 。而ルニ及ブ 2( 諸兄ニ )1 。是ヲ以テ尤ムル^之ヲ耳ト。慈明曰ク、|昔者(むかし)|祁奚(きけい)〈NOTE 晉の大夫。 〉内擧シテ不^失ハ 2( 其ノ子ヲ )1 、外擧シテ不^失ハ 2( 其ノ讐ヲ )1 。以テ爲ス 2( 至公ト )1 。公旦〈NOTE 周公、名は旦、文王の子、武王の弟なり。 〉文王ノ之詩ニ、不シテ^論ゼ 2( 堯舜ノ之德ヲ )1 而頌スル 2( 文武ヲ )1 者ハ、親シムノ^|親(しん)ヲ之義也。春秋ノ之義ハ内ニシテ 2( 其ノ國ヲ )1 而外ニス 2( 諸夏〈NOTE 他の諸侯。 〉ヲ )1 。且ツ不シテ^愛セ 2( 其ノ親ヲ )1 而愛スル 2( 他人ヲ )1 者ハ、不ヤ^爲サ 2( 悖德ト )1 乎ト。
注記
○荀慈明丨後漢の荀爽。時人曰く、荀氏の八龍、慈明は無雙と。 ○依據する者丨よりどころ ○祁奚丨晉の大夫。 ○公旦丨周公、名は旦、文王の子、武王の弟なり。 ○諸夏丨他の諸侯。
〔八〕
南郡ノ龎士元〔注丨名は統、鳳雛の稱あり〕、聞キ三司馬德操〔注丨名は徽、水鏡先生と曰ふ。〕在リト二潁川ニ一、故ラニ二千里ニシテ候フレ之ヲ。至レバ、遇フ二德操ガ采ルニ一レ桑ヲ。士元從リ二車中一謂ツテ曰ク、吾聞ク丈夫ノ處ルレ世ニ、當ニシ 二帶ビレ金ヲ佩ブ〔注丨金印紫綬〕一レ紫ヲ。焉クンゾ有ラン〔注丨洪大の德議を藏しながら養蠶婦の事を爲すか。〕ト下屈シテ二洪流ノ之量ヲ一、而執ルコト中絲婦ノ之事ヲ上。德操曰ク、子且ク下リヨレ車ヨリ。子適ニ知ツテ二邪徑ノ之速カナルヲ一、不レ慮ラ二失フノレ道ヲ之迷ヒヲ一。昔伯成〔注丨堯の時立ち、諸侯となり、禹の時退耕せし人。〕ハ耦耕シテ、不レ慕ハ二諸侯ノ之榮ヲ一。原憲〔注丨孔門の賢士。桑枝もて戸樞と爲し、破甕もて牖窓と爲したる人。〕ハ桑樞モ不レ易ヘ二有官ノ之宅ニ一。何ゾ有ツテ二坐スルトキハ則チ華屋、行クトキハ則チ肥馬、侍女數十一、然シテ後爲サンレ奇ト。此レ乃チ許・父〔注丨許由・巣父〕ガ所-二以ニシテ忼慨スル一、夷・齊〔注丨伯夷・叔齊〕ガ所-二以ナリ長歎スル一。雖モレ有リト二竊秦ノ之爵〔注丨秦の呂不韋は詐を以て爵を得たり。故に謂ふ〕、千駟ノ之富一、不ルレ足ラレ貴ブニ也ト。士元曰ク、僕生-二出シテ邊垂ニ一、寡シレ見ルコト二大義ヲ一。若シ不ンバ下一タビ叩キ二洪鐘ヲ一、伐タ中雷鼓ヲ上、則チ不ランレ識ラ二其ノ音響ヲ一也ト。
南郡の龎士元、司馬德操潁川に在りと聞き、故らに二千里にして之を候ふ。至れば、德操が桑を采るに遇ふ。士元車中より謂つて曰く、吾聞く丈夫の世に處る、當に金を帶び紫を佩ぶべし。焉くんぞ洪流の之量を屈して、而絲婦の之事を執ること有らんと。德操曰く、子且く車より下りよ。子適に邪徑の之速かなるを知つて、道を失ふの之迷ひを慮らず。昔伯成は耦耕して、諸侯の之榮を慕はず。原憲は桑樞も有官の之宅に易へず。何ぞ坐するときは則ち華屋、行くときは則ち肥馬、侍女數十有つて、然して後奇と爲さん。此れ乃ち許・父が忼慨する所以にして、夷・齊が長歎する所以なり。竊秦の之爵、千駟の之富有りと雖も、貴ぶに足らざる也と。士元曰く、僕邊垂に生出して、大義を見ること寡し。若し一たび洪鐘を叩き、雷鼓を伐たずんば、則ち其の音響を識らざらん也と。
原文
南郡龎士元、聞司馬德操在潁川、故二千里候之。至、遇德操采桑。士元從車中謂曰、吾聞丈夫處世、當帶金佩紫。焉有屈洪流之量、而執絲婦之事。德操曰、子且下車。子適知邪徑之速、不慮失道之迷。昔伯成耦耕、不慕諸侯之榮。原憲桑樞不易有官之宅。何有坐則華屋、行則肥馬、侍女數十、然後爲奇。此乃許・父所以忼慨、夷・齊所以長歎。雖有竊秦之爵、千駟之富、不足貴也。士元曰、僕生出邊垂、寡見大義。若不一叩洪鐘、伐雷鼓、則不識其音響也。
南郡龎士元、聞[三]司馬德操在[二]潁川[一]、故二千里候[レ]之。至、遇[二]德操采[一レ]桑。士元從[二]車中[一]謂曰、吾聞丈夫處[レ]世、當[二]帶[レ]金佩[一レ]紫。焉有[下]屈[二]洪流之量[一]、而執[中]絲婦之事[上]。德操曰、子且下[レ]車。子適知[二]邪徑之速[一]、不[レ]慮[二]失[レ]道之迷[一]。昔伯成耦耕、不[レ]慕[二]諸侯之榮[一]。原憲桑樞不[レ]易[二]有官之宅[一]。何有[二]坐則華屋、行則肥馬、侍女數十[一]、然後爲[レ]奇。此乃許・父所-[二]以忼慨[一]、夷・齊所-[二]以長歎[一]。雖[レ]有[二]竊秦之爵、千駟之富[一]、不[レ]足[レ]貴也。士元曰、僕生-[二]出邊垂[一]、寡[レ]見[二]大義[一]。若不[下]一叩[二]洪鐘[一]、伐[中]雷鼓[上]、則不[レ]識[二]其音響[一]也。
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南郡ノ|龎士元(はうしげん)〈NOTE 名は統、鳳雛の稱あり 〉、聞キ 3( 司馬德操〈NOTE 名は徽、水鏡先生と曰ふ。 〉在リト 2( 潁川ニ )1 、故ラニ二千里ニシテ|候(うかゞ)フ^之ヲ。至レバ、遇フ 2( 德操ガ采ルニ )1^桑ヲ。士元從リ 2( 車中 )1 謂ツテ曰ク、吾聞ク丈夫ノ處ル^世ニ、當ニ _シ_ 2( 帶ビ^金ヲ|佩(お)ブ〈NOTE 金印紫綬 〉 )1^|紫(し)ヲ。焉クンゾ有ラン〈NOTE 洪大の德議を藏しながら養蠶婦の事を爲すか。 〉ト 2{ 屈シテ 2( 洪流ノ之量ヲ )1 、而執ルコト ┤絲婦ノ之事ヲ }1 。德操曰ク、子且ク下リヨ^車ヨリ。子|適(まさ)ニ知ツテ 2( 邪徑ノ之速カナルヲ )1 、不^|慮(おもんぱか)ラ 2( 失フノ^道ヲ之迷ヒヲ )1 。昔伯成〈NOTE 堯の時立ち、諸侯となり、禹の時退耕せし人。 〉ハ耦耕シテ、不^慕ハ 2( 諸侯ノ之榮ヲ )1 。原憲〈NOTE 孔門の賢士。桑枝もて戸樞と爲し、破甕もて牖窓と爲したる人。 〉ハ桑樞モ不^易ヘ 2( 有官ノ之宅ニ )1 。何ゾ有ツテ 2( 坐スルトキハ則チ華屋、行クトキハ則チ肥馬、侍女數十 )1 、然シテ後爲サン^奇ト。此レ乃チ許・父〈NOTE 許由・巣父 〉ガ所- 2( 以ニシテ忼慨スル )1 、夷・齊〈NOTE 伯夷・叔齊 〉ガ所- 2( 以ナリ長歎スル )1 。雖モ^有リト 2( |竊秦(せつしん)ノ之爵〈NOTE 秦の呂不韋は詐を以て爵を得たり。故に謂ふ 〉、千駟ノ之富 )1 、不ル^足ラ^貴ブニ也ト。士元曰ク、僕生- 2( 出シテ邊垂ニ )1 、寡シ^見ルコト 2( 大義ヲ )1 。若シ不ンバ 2{ 一タビ叩キ 2( 洪鐘ヲ )1 、伐タ ┤雷鼓ヲ }1 、則チ不ラン^識ラ 2( 其ノ音響ヲ )1 也ト。
注記
○龎士元丨名は統、鳳雛の稱あり ○司馬德操丨名は徽、水鏡先生と曰ふ。 ○金を帶び紫を佩ぶ丨金印紫綬 ○焉くんぞ洪流の量を屈して絲婦の事を執る有らん丨洪大の德議を藏しながら養蠶婦の事を爲すか。 ○伯成丨堯の時立ち、諸侯となり、禹の時退耕せし人。 ○原憲丨孔門の賢士。桑枝もて戸樞と爲し、破甕もて牖窓と爲したる人。 ○許・父丨許由・巣父 ○夷・齊丨伯夷・叔齊 ○竊秦の爵丨秦の呂不韋は詐を以て爵を得たり。故に謂ふ
〔九〕
曹公既ニ殺ス二楊德祖〔注丨楊修なり。其父は漢の太尉楊彪なり。〕ヲ一。後與二太尉一遇フ二於朝堂ニ一。曹問フ二太尉ニ一、公何ゾ痩セタルコトノ之甚ダシキト。太尉答ヘテ曰ク、愧ヅラクハ無ク二日磾ガ先見ノ之明〔注丨漢の金日磾は見込なきを以て愛兒を殺せり。〕一、猶ホ懷クト二老牛ガ舐ルノレ犢ヲ之愛〔注丨愛に溺るるを謂ふ。〕ヲ一。曹公爲メニレ之ガ改ムレ容ヲ。
曹公既に楊德祖を殺す。後太尉と於朝堂に遇ふ。曹太尉に問ふ、公何ぞ痩せたることの之甚だしきと。太尉答へて曰く、愧づらくは日磾が先見の之明無く、猶ほ老牛が犢を舐るの之愛を懷くと。曹公之が爲めに容を改む。
原文
曹公既殺楊德祖。後與太尉遇於朝堂。曹問太尉、公何痩之甚。太尉答曰、愧無日磾先見之明、猶懷老牛舐犢之愛。曹公爲之改容。
曹公既殺[二]楊德祖[一]。後與[二]太尉[一]遇[二]於朝堂[一]。曹問[二]太尉[一]、公何痩之甚。太尉答曰、愧無[二]日磾先見之明[一]、猶懷[二]老牛舐[レ]犢之愛[一]。曹公爲[レ]之改[レ]容。
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曹公既ニ殺ス 2( 楊德祖〈NOTE 楊修なり。其父は漢の太尉楊彪なり。 〉ヲ )1 。後與 2( 太尉 )1 遇フ 2( 於朝堂ニ )1 。曹問フ 2( 太尉ニ )1 、公何ゾ痩セタルコトノ之甚ダシキト。太尉答ヘテ曰ク、愧ヅラクハ無ク 2( |日磾(じつてい)ガ先見ノ之明〈NOTE 漢の金日磾は見込なきを以て愛兒を殺せり。 〉 )1 、猶ホ懷クト 2( 老牛ガ|舐(ねぶ)ルノ^犢ヲ之愛〈NOTE 愛に溺るるを謂ふ。 〉ヲ )1 。曹公爲メニ^之ガ改ム^容ヲ。
注記
○楊德祖丨楊修なり。其父は漢の太尉楊彪なり。 ○日磾が先見の明丨漢の金日磾は見込なきを以て愛兒を殺せり。 ○老牛が犢を舐るの愛を懷く丨愛に溺るるを謂ふ。
〔一〇〕
許汜與二劉玄德一並ビニ在リ二劉荊州〔注丨劉表は荊州の刺史たり。〕ガ坐ニ一。共ニ論ズ二人物ヲ一。許曰ク、陳元龍〔注丨陳登〕ハ淮海ノ之士、豪氣不トレ除カ。玄德問フレ許ニ、君言フハレ豪ト、寧ロ有ルカレ事耶〔注丨事實ありしか。〕ト。許曰ク、昔遭ヒテレ亂ニ過ギリ二下邳ニ一、見ユ二元龍ニ一。無ク二客主ノ之意一、不二相與ニ語ラ一。自ラ上ツテ二大牀ニ一臥シ、使ムト三客ヲシテ臥サ二下牀ニ一。玄德曰ク、君有リ二國士ノ之名一。今四海横流シ、帝王失フレ所ヲ。而ルニ無ク二救フノレ世ヲ之意一、求メレ田ヲ問ヒレ舍ヲ〔注丨隱居して安を求むるの意なり〕、言無シレ可キレ採ル。是レ元龍ガ所レ諱ム也。何ニ縁ツテカ當ニキ 二與レ君語ル一。如キハレ我ノ自ラ臥シ二百尺樓上ニ一、臥サシメン二君ヲ於地下ニ一。何ゾ但ニ上下牀ノ之間ノミナランヤ哉ト。
許汜劉玄德と並びに劉荊州が坐に在り。共に人物を論ず。許曰く、陳元龍は淮海の之士、豪氣除かずと。玄德許に問ふ、君豪と言ふは、寧ろ事有るか耶と。許曰く、昔亂に遭ひて下邳に過ぎり、元龍に見ゆ。客主の之意無く、相與に語らず。自ら大牀に上つて臥し、客をして下牀に臥さしむと。玄德曰く、君國士の之名有り。今四海横流し、帝王所を失ふ。而るに世を救ふの之意無く、田を求め舍を問ひ、言採るべき無し。是れ元龍が諱む所也。何に縁つてか當に君と語るべき。我の如きは自ら百尺樓上に臥し、君を於地下に臥さしめん。何ぞ但に上下牀の之間のみならんや哉と。
原文
許汜與劉玄德並在劉荊州坐。共論人物。許曰、陳元龍淮海之士、豪氣不除。玄德問許、君言豪、寧有事耶。許曰、昔遭亂過下邳、見元龍。無客主之意、不相與語。自上大牀臥、使客臥下牀。玄德曰、君有國士之名。今四海横流、帝王失所。而無救世之意、求田問舍、言無可採。是元龍所諱也。何縁當與君語。如我自臥百尺樓上、臥君於地下。何但上下牀之間哉。
許汜與[二]劉玄德[一]並在[二]劉荊州坐[一]。共論[二]人物[一]。許曰、陳元龍淮海之士、豪氣不[レ]除。玄德問[レ]許、君言[レ]豪、寧有[レ]事耶。許曰、昔遭[レ]亂過[二]下邳[一]、見[二]元龍[一]。無[二]客主之意[一]、不[二]相與語[一]。自上[二]大牀[一]臥、使[三]客臥[二]下牀[一]。玄德曰、君有[二]國士之名[一]。今四海横流、帝王失[レ]所。而無[二]救[レ]世之意[一]、求[レ]田問[レ]舍、言無[レ]可[レ]採。是元龍所[レ]諱也。何縁當[二]與[レ]君語[一]。如[レ]我自臥[二]百尺樓上[一]、臥[二]君於地下[一]。何但上下牀之間哉。
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|許汜(きよし)與 2( 劉玄德 )1 並ビニ在リ 2( 劉荊州〈NOTE 劉表は荊州の刺史たり。 〉ガ坐ニ )1 。共ニ論ズ 2( 人物ヲ )1 。許曰ク、陳元龍〈NOTE 陳登 〉ハ淮海ノ之士、豪氣不ト^除カ。玄德問フ^許ニ、君言フハ^豪ト、寧ロ有ルカ^事耶〈NOTE 事實ありしか。 〉ト。許曰ク、昔遭ヒテ^亂ニ過ギリ 2( 下邳ニ )1 、見ユ 2( 元龍ニ )1 。無ク 2( 客主ノ之意 )1 、不 2( 相與ニ語ラ )1 。自ラ上ツテ 2( 大牀ニ )1 臥シ、使ムト 3( 客ヲシテ臥サ 2( 下牀ニ )1 。玄德曰ク、君有リ 2( 國士ノ之名 )1 。今四海横流シ、帝王失フ^所ヲ。而ルニ無ク 2( 救フノ^世ヲ之意 )1 、求メ^田ヲ問ヒ^舍ヲ〈NOTE 隱居して安を求むるの意なり 〉、言無シ^可キ^採ル。是レ元龍ガ所^諱ム也。何ニ縁ツテカ當ニ _キ_ 2( 與^君語ル )1 。如キハ^我ノ自ラ臥シ 2( 百尺樓上ニ )1 、臥サシメン 2( 君ヲ於地下ニ )1 。何ゾ|但(たゞ)ニ|上下牀(じやうかしやう)ノ之間ノミナランヤ哉ト。
注記
○劉荊州丨劉表は荊州の刺史たり。 ○陳元龍丨陳登 ○事有るか丨事實ありしか。 ○田を求め舍を問ふ丨隱居して安を求むるの意なり
〔一一〕
劉公幹〔注丨名は楨。〕以テ二失敬ヲ一罹ルレ罪ニ。文帝問ウテ曰ク、卿何ヲ以テカ不ルトレ謹マ二於文憲〔注丨國家の法典。〕ニ一。楨答ヘテ曰ク、臣誠ニ庸短ナリ。亦由ルト二陛下ノ網目不ル〔注丨法律苛密なるを指す。〕ニ一レ疎ナラ。
劉公幹失敬を以て罪に罹る。文帝問うて曰く、卿何を以てか於文憲に謹まざると。楨答へて曰く、臣誠に庸短なり。亦陛下の網目疎ならざるに由ると。
原文
劉公幹以失敬罹罪。文帝問曰、卿何以不謹於文憲。楨答曰、臣誠庸短。亦由陛下網目不疎。
劉公幹以[二]失敬[一]罹[レ]罪。文帝問曰、卿何以不[レ]謹[二]於文憲[一]。楨答曰、臣誠庸短。亦由[二]陛下網目不[一レ]疎。
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劉公幹〈NOTE 名は楨。 〉以テ 2( 失敬ヲ )1 |罹(かゝ)ル^罪ニ。文帝問ウテ曰ク、卿何ヲ以テカ不ルト^謹マ 2( 於文憲〈NOTE 國家の法典。 〉ニ )1 。楨答ヘテ曰ク、臣誠ニ庸短ナリ。亦由ルト 2( 陛下ノ網目不ル〈NOTE 法律苛密なるを指す。 〉ニ )1^疎ナラ。
注記
○劉公幹丨名は楨。 ○文憲丨國家の法典。 ○網目の疎ならざる丨法律苛密なるを指す。
〔一二〕
何平叔〔注丨何晏の字。〕云ク、服スレバ二五石散〔注丨寒食散に同じ。〕ヲ一、非ズ二唯ダニ治ムルノミニ一レ病ヲ、亦覺ユト二神明開朗ナルヲ一。
何平叔云く、五石散を服すれば、唯だに病を治むるのみに非ず、亦神明開朗なるを覺ゆと。
原文
何平叔云、服五石散、非唯治病、亦覺神明開朗。
何平叔云、服[二]五石散[一]、非[二]唯治[一レ]病、亦覺[二]神明開朗[一]。
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何平叔〈NOTE 何晏の字。 〉云ク、服スレバ 2( 五石散〈NOTE 寒食散に同じ。 〉ヲ )1 、非ズ 2( 唯ダニ治ムルノミニ )1^病ヲ、亦覺ユト 2( 神明開朗ナルヲ )1 。
注記
○何平叔丨何晏の字。 ○五石散丨寒食散に同じ。
〔一三〕
何尚書自ラ言フ、易ノ義精了ス。所ノレ不ルレ解セ者九事アリト。一日迎ヘテ二管公明〔注丨管輅〕ヲ一共ニ論ズ。公明爲メニ剖-二析ス玄旨〔注丨深遠の義理を解剖析明す。〕ヲ一。九事皆明ラカナリ。時ニ鄧元茂〔注丨鄧鷗〕モ亦在リレ坐ニ、言フ、君見テレ謂ハレ善クスルトレ易ヲ、而モ語不ルハレ及バ二易中ノ辭義ニ一、何ゾヤ也ト。公明尋イデレ聲ヲ答ヘテ言フ、夫レ善クスルレ易ヲ者ハ不トレ論ゼレ易ヲ。尚書含ミテレ笑ヲ贊シテレ之ヲ曰ク、可シトレ謂フ二要言不トレ煩ナラ一。
何尚書自ら言ふ、易の義精了す。解せざる所の者九事ありと。一日管公明を迎へて共に論ず。公明爲めに玄旨を剖析す。九事皆明らかなり。時に鄧元茂も亦坐に在り、言ふ、君易を善くすると謂は見て、而も語易中の辭義に及ばざるは、何ぞや也と。公明聲を尋いで答へて言ふ、夫れ易を善くする者は易を論ぜずと。尚書笑を含みて之を贊して曰く、要言煩ならずと謂ふべしと。
原文
何尚書自言、易義精了。所不解者九事。一日迎管公明共論。公明爲剖析玄旨。九事皆明。時鄧元茂亦在坐、言、君見謂善易、而語不及易中辭義、何也。公明尋聲答言、夫善易者不論易。尚書含笑贊之曰、可謂要言不煩。
何尚書自言、易義精了。所[レ]不[レ]解者九事。一日迎[二]管公明[一]共論。公明爲剖-[二]析玄旨[一]。九事皆明。時鄧元茂亦在[レ]坐、言、君見[レ]謂[レ]善[レ]易、而語不[レ]及[二]易中辭義[一]、何也。公明尋[レ]聲答言、夫善[レ]易者不[レ]論[レ]易。尚書含[レ]笑贊[レ]之曰、可[レ]謂[二]要言不[レ]煩[一]。
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何尚書自ラ言フ、易ノ義精了ス。所ノ^不ル^解セ者九事アリト。一日迎ヘテ 2( 管公明〈NOTE 管輅 〉ヲ )1 共ニ論ズ。公明爲メニ剖- 2( 析ス玄旨〈NOTE 深遠の義理を解剖析明す。 〉ヲ )1 。九事皆明ラカナリ。時ニ鄧|元茂(げんぼう)〈NOTE 鄧鷗 〉モ亦在リ^坐ニ、言フ、君|見(れ)テ^謂ハ^善クスルト^易ヲ、而モ語不ルハ^及バ 2( 易中ノ辭義ニ )1 、何ゾヤ也ト。公明|尋(つ)イデ^聲ヲ答ヘテ言フ、夫レ善クスル^易ヲ者ハ不ト^論ゼ^易ヲ。尚書含ミテ^|笑(ゑみ)ヲ贊シテ^之ヲ曰ク、可シト^謂フ 2( 要言不ト^煩ナラ )1 。
注記
○管公明丨管輅 ○玄旨を剖析す丨深遠の義理を解剖析明す。 ○鄧元茂丨鄧鷗
〔一四〕
孫討逆〔注丨孫策、字は伯符。曹操表して討逆將軍とす。〕既ニ定メ二豫章ヲ一、還ツテ饗ス二將士ヲ一。謂ツテ二虞仲翔〔注丨名は翻。〕ニ一曰ク、孤昔再ビ至リ二壽春ニ一、見エ二馬日磾ニ一、及ビ與二中州ノ士大夫一會シテ、言フ、我ガ東方ノ人才多キ耳。恨ムラクハ學問不レ愽カラ、語議有リトレ所レ不ルレ及バ。孤ガ意猶ホ謂フレ未ダト レ爾ラ。卿愽學洽聞ナリ。故ニ前ニ欲スレ令メント下卿ヲシテ一タビ詣リレ許〔注丨許都〕ニ、交-二見シテ朝士ニ一、以テ折カ中中國ノ妄語兒ヲ上。卿不ンバレ願ハレ行クコトヲ、便チ使セシメン二張子綱〔注丨張紘〕ヲ一。恐ラクハ子綱不ラン〔注丨妄語兒等の妄語を禁ずる能はじ。〕レ能ハレ結ブ二兒輩ノ舌ヲ一也ト。
孫討逆既に豫章を定め、還つて將士を饗す。虞仲翔に謂つて曰く、孤昔再び壽春に至り、馬日磾に見え、及び中州の士大夫與會して、言ふ、我が東方の人才多きのみ。恨むらくは學問愽からず、語議及ばざる所有りと。孤が意猶ほ未だ爾らずと謂ふ。卿愽學洽聞なり。故に前に卿をして一たび許に詣り、朝士に交見して、以て中國の妄語兒を折かしめんと欲す。卿行くことを願はずんば、便ち張子綱を使せしめん。恐らくは子綱兒輩の舌を結ぶ能はざらん也と。
原文
孫討逆既定豫章、還饗將士。謂虞仲翔曰、孤昔再至壽春、見馬日磾、及與中州士大夫會、言、我東方人才多耳。恨學問不愽、語議有所不及。孤意猶謂未爾。卿愽學洽聞。故前欲令卿一詣許、交見朝士、以折中國妄語兒。卿不願行、便使張子綱。恐子綱不能結兒輩舌也。
孫討逆既定[二]豫章[一]、還饗[二]將士[一]。謂[二]虞仲翔[一]曰、孤昔再至[二]壽春[一]、見[二]馬日磾[一]、及與[二]中州士大夫[一]會、言、我東方人才多耳。恨學問不[レ]愽、語議有[レ]所[レ]不[レ]及。孤意猶謂[レ]未[レ]爾。卿愽學洽聞。故前欲[レ]令[下]卿一詣[レ]許、交-[二]見朝士[一]、以折[中]中國妄語兒[上]。卿不[レ]願[レ]行、便使[二]張子綱[一]。恐子綱不[レ]能[レ]結[二]兒輩舌[一]也。
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孫討逆〈NOTE 孫策、字は伯符。曹操表して討逆將軍とす。 〉既ニ定メ 2( 豫章ヲ )1 、還ツテ饗ス 2( 將士ヲ )1 。謂ツテ 2( 虞仲翔〈NOTE 名は翻。 〉ニ )1 曰ク、孤昔再ビ至リ 2( 壽春ニ )1 、見エ 2( 馬日磾ニ )1 、及ビ與 2( 中州ノ士大夫 )1 會シテ、言フ、我ガ東方ノ人才多キ耳。恨ムラクハ學問不^愽カラ、語議有リト^所^不ル^及バ。孤ガ意猶ホ|謂(おも)フ^未ダ _ト_ ^爾ラ。卿愽學洽聞ナリ。故ニ前ニ欲ス^令メント 2{ 卿ヲシテ一タビ詣リ^許〈NOTE 許都 〉ニ、交- 2( 見シテ朝士ニ )1 、以テ|折(くじ)カ ┤中國ノ妄語兒ヲ }1 。卿不ンバ^願ハ^行クコトヲ、便チ使セシメン 2( 張子綱〈NOTE 張紘 〉ヲ )1 。恐ラクハ子綱不ラン〈NOTE 妄語兒等の妄語を禁ずる能はじ。 〉^能ハ^結ブ 2( 兒輩ノ舌ヲ )1 也ト。
注記
○孫討逆丨孫策、字は伯符。曹操表して討逆將軍とす。 ○虞仲翔丨名は翻。 ○許丨許都 ○張子綱丨張紘 ○兒輩の舌を結ぶ能はざらん丨妄語兒等の妄語を禁ずる能はじ。
〔一五〕
李令伯〔注丨李密〕常テ聘セラルレ呉ニ。呉主與二羣臣一汎ク論ズ二道義ヲ一。因ツテ言フ、寧ロ爲ラント二人ノ弟ト一。令伯曰ク、願ハクハ爲ラント二人ノ兄ト一。呉主問フ、何ゾ願フトレ爲ルヲレ兄ト。令伯答ヘテ曰ク、爲レバレ兄ト供養〔注丨親に奉仕するなり。〕ノ之日長シト。呉主及ビ羣臣稱スレ善ト。
李令伯常て呉に聘せらる。呉主羣臣と汎く道義を論ず。因つて言ふ、寧ろ人の弟と爲らんと。令伯曰く、願はくは人の兄と爲らんと。呉主問ふ、何ぞ兄と爲るを願ふと。令伯答へて曰く、兄と爲れば供養の之日長しと。呉主及び羣臣善と稱す。
原文
李令伯常聘呉。呉主與羣臣汎論道義。因言、寧爲人弟。令伯曰、願爲人兄。呉主問、何願爲兄。令伯答曰、爲兄供養之日長。呉主及羣臣稱善。
李令伯常聘[レ]呉。呉主與[二]羣臣[一]汎論[二]道義[一]。因言、寧爲[二]人弟[一]。令伯曰、願爲[二]人兄[一]。呉主問、何願[レ]爲[レ]兄。令伯答曰、爲[レ]兄供養之日長。呉主及羣臣稱[レ]善。
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李令伯〈NOTE 李密 〉|常(かつ)テ聘セラル^呉ニ。呉主與 2( 羣臣 )1 汎ク論ズ 2( 道義ヲ )1 。因ツテ言フ、寧ロ爲ラント 2( 人ノ弟ト )1 。令伯曰ク、願ハクハ爲ラント 2( 人ノ兄ト )1 。呉主問フ、何ゾ願フト^爲ルヲ^兄ト。令伯答ヘテ曰ク、爲レバ^兄ト|供養(きようやう)〈NOTE 親に奉仕するなり。 〉ノ之日長シト。呉主及ビ羣臣稱ス^善ト。
注記
○李令伯丨李密 ○供養丨親に奉仕するなり。
〔一六〕
王渾平ラグルノレ呉ヲ之日、登ツテ二建業宮ニ一釃ム〔注丨酒を下し飮む。〕レ酒ヲ。既ニ酣ナリ。謂ツテ二呉人ニ一曰ク、諸君ハ亡國ノ之餘ナリ。得ンヤレ無キコトヲレ戚ヘ〔注丨憂愁〕乎ト。時ニ周子隱〔注丨周處なり。後出。〕答ヘテ曰ク、漢末ニ分崩シ、三國鼎立ス。魏滅ビ二於前ニ一、呉亡ブ二於後ニ一。亡國ノ之戚ヘ、豈ニ唯ダ一人ノミナランヤト。王大ニ有リ二慚ヅル色一。
王渾呉を平らぐるの之日、建業宮に登つて酒を釃む。既に酣なり。呉人に謂つて曰く、諸君は亡國の之餘なり。戚へ無きことを得んや乎と。時に周子隱答へて曰く、漢末に分崩し、三國鼎立す。魏於前に滅び、呉於後に亡ぶ。亡國の之戚へ、豈に唯だ一人のみならんやと。王大に慚づる色有り。
原文
王渾平呉之日、登建業宮釃酒。既酣。謂呉人曰、諸君亡國之餘。得無戚乎。時周子隱答曰、漢末分崩、三國鼎立。魏滅於前、呉亡於後。亡國之戚、豈唯一人。王大有慚色。
王渾平[レ]呉之日、登[二]建業宮[一]釃[レ]酒。既酣。謂[二]呉人[一]曰、諸君亡國之餘。得[レ]無[レ]戚乎。時周子隱答曰、漢末分崩、三國鼎立。魏滅[二]於前[一]、呉亡[二]於後[一]。亡國之戚、豈唯一人。王大有[二]慚色[一]。
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王渾平ラグルノ^呉ヲ之日、登ツテ 2( 建業宮ニ )1 |釃(く)ム〈NOTE 酒を下し飮む。 〉^酒ヲ。既ニ酣ナリ。謂ツテ 2( 呉人ニ )1 曰ク、諸君ハ亡國ノ之餘ナリ。得ンヤ^無キコトヲ^|戚(うれ)ヘ〈NOTE 憂愁 〉乎ト。時ニ周子隱〈NOTE 周處なり。後出。 〉答ヘテ曰ク、漢末ニ分崩シ、三國鼎立ス。魏滅ビ 2( 於前ニ )1 、呉亡ブ 2( 於後ニ )1 。亡國ノ之戚ヘ、豈ニ唯ダ一人ノミナランヤト。王大ニ有リ 2( 慚ヅル色 )1 。
注記
○酒を釃む丨酒を下し飮む。 ○戚へ丨憂愁 ○周子隱丨周處なり。後出。
〔一七〕
魏ノ明帝爲メニ二外祖母〔注丨母方の祖母〕ノ一築ク二館ヲ於甄氏ニ一。既ニ成ルヤ、自ラ行キテ視、謂ツテ二左右ニ一曰ク、館當ニキト 二以テレ何ヲ爲ス一レ名ト。侍中繆襲〔注丨字は煕伯。〕曰ク、陛下ノ聖思齊シク二於哲王ニ一、罔極〔注丨無極の思念也。父母を思念する孝德は曾參・閔損にも勝ると也。〕過ギタリ二曾・閔ニ一。此ノ館ノ之興ルヤ、情鍾マル二舅氏ニ一。宜シクシト 下以テ二渭陽〔注丨秦詩に渭陽は康公が母を念ふなりとあるによる。〕ヲ一爲ス上レ名ト。
魏の明帝外祖母の爲めに館を於甄氏に築く。既に成るや、自ら行きて視、左右に謂つて曰く、館當に何を以て名と爲すべきと。侍中繆襲曰く、陛下の聖思於哲王に齊しく、罔極曾・閔に過ぎたり。此の館の之興るや、情舅氏に鍾まる。宜しく渭陽を以て名と爲すべしと。
原文
魏明帝爲外祖母築館於甄氏。既成、自行視、謂左右曰、館當以何爲名。侍中繆襲曰、陛下聖思齊於哲王、罔極過曾・閔。此館之興、情鍾舅氏。宜以渭陽爲名。
魏明帝爲[二]外祖母[一]築[二]館於甄氏[一]。既成、自行視、謂[二]左右[一]曰、館當[二]以[レ]何爲[一レ]名。侍中繆襲曰、陛下聖思齊[二]於哲王[一]、罔極過[二]曾・閔[一]。此館之興、情鍾[二]舅氏[一]。宜[下]以[二]渭陽[一]爲[上レ]名。
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魏ノ明帝爲メニ 2( 外祖母〈NOTE 母方の祖母 〉ノ )1 築ク 2( 館ヲ於|甄氏(けんし)ニ )1 。既ニ成ルヤ、自ラ行キテ視、謂ツテ 2( 左右ニ )1 曰ク、館當ニ _キト_ 2( 以テ^何ヲ爲ス )1^名ト。侍中|繆襲(ぼくしふ)〈NOTE 字は煕伯。 〉曰ク、陛下ノ聖思齊シク 2( 於哲王ニ )1 、|罔極(ばうきよく)〈NOTE 無極の思念也。父母を思念する孝德は曾參・閔損にも勝ると也。 〉過ギタリ 2( |曾・閔(そうびん)ニ )1 。此ノ館ノ之興ルヤ、情鍾マル 2( 舅氏ニ )1 。宜シク _シト_ 2{ 以テ 2( 渭陽〈NOTE 秦詩に渭陽は康公が母を念ふなりとあるによる。 〉ヲ )1 爲ス }1 ^名ト。
注記
○外祖母丨母方の祖母 ○繆襲丨字は煕伯。 ○罔極丨無極の思念也。父母を思念する孝德は曾參・閔損にも勝ると也。 ○渭陽丨秦詩に渭陽は康公が母を念ふなりとあるによる。
李卓吾批點世説新語補卷之二<了>