逸話文庫:1:武事:8
△ ◀ ▶ ?

内外古今 逸話文庫 第一編

武事

○ 加藤淸正猛虎(まうこ)を銃殺す

朝鮮(てうせん)にて何(いづ)れの所にてか有りけん、淸正の陣(ぢん)大山の麓(ふもと)なりけるに、虎夜(よる)來(きた)りて馬を中(ちう)に引さげ、虎落(とらおとし)の上を飛出(とびいで)けり、淸正口惜(くちをし)き事なりと怒(いか)られけるに、小姓(こしやう)上月(かうづき)左膳(さぜん)をも虎來て咥(かみ)殺せり、淸正夜明(あく)ると山を取卷(とりまき)て虎を狩りたるに、一疋(いつぴき)の虎生茂(おひしげ)りたる萱原(かやはら)をかきわけ、淸正を目がけて來(きた)る、淸正大なる岩の上に在て、鐵砲を持(もち)ねらはるゝに、其間三十間(けん)計(ばかり)、虎淸正を睨(にら)みて立止(たちど)まる、人々鐵砲を揃(そろ)へて搏(うた)んとするを、淸正下知(げぢ)して打せられず、自(みづか)ら打殺さんとの志なり、斯(かく)て虎間近(まぢか)く猛(たけ)り來り、口を開きて飛かゝる處(ところ)をうたれしに、咽(のど)に打込(うちこみ)たれば、そこに倒れ起上(おきあが)らんとせしかども、痛手(いたで)なれば終(つひ)に死しぬ (湯淺常山)

加藤清正と虎
加藤清正と虎