逸話文庫:1:文藝:22
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内外古今 逸話文庫 第一編

文藝

○ 一曲の音樂三萬の人命を救ふ

殘忍刻薄を以て名高き土耳古(トルコ)帝アムラス、曾(かつ)てバグダツト府を陷(おとしい)れて、降人(こうじん)三萬を獲たりければ、將士(しやうし)に命じて將(まさ)に之を鏖(みなごろし)にせんとせしに、降人中に一樂人(いつがくじん)あり、アムラスに請ふて曰く、生前若し帝の前に於て、一曲の樂を奏(そう)するを得ば、死して餘榮(よえい)ありと、アムラス之を許す、樂人即ち樂器(がくき)をとりて之を奏し、バグダツトの陷落土軍(どぐん)の勝利を唱(うた)ふ、其聲瀏喨(りうれう)として或は高く或は低く、乍(たちまち)にして悲慘、乍ちにして壯烈、荒凉(くわうりやう)黯憺(あんたん)の光景(ありさま)、恍然(くわうぜん)として目前に現れ來(きた)り、數萬の軍人皆感嘆落涙せざるなく、流石(さすが)のアムラスも、そゞろに憐憫(れんびん)悲哀の情を催し、思はず涙を濺(そゝ)ぎ、遂に俘囚(ふしう)三萬人を解放せりといふ