逸話文庫:1:文藝:18
△ ◀ ▶ ?

内外古今 逸話文庫 第一編

文藝

○ ダブエツト慘苦(さんく)の何たるを知らず

佛國(ふつこく)の畫工(ぐわこう)ダブエツトは、平生(へいぜい)親み深き友人ダントン及びカミールデスムリン等の、死刑に處(しよ)せらるゝ時、寫生術を研究せんとて、群衆と共に現塲(げんぢやう)に臨み、毫(がう)も悲哀の何物たるを知らざるものゝ如(ごと)し、一千七百九十二年九月ラフオールズに於て、囚徒(しうと)を虐殺せる時も、亦(また)現塲にあり、筆を執り悠然として其實况(じつきやう)を寫せり、レプール傍にあり、君は何を爲すやと問ひしに、ダブエツト冷然答へて曰く、唯(たゞ)これ惡漢(あくかん)が終(をはり)に臨み苦痛痙攣(けいれん)するの狀を寫すのみと