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十八史略　 — 抜萃 —

曾先之

※ 本文及び訓読は島田鈞一『參考　十八史略通解』（有精堂出版部　1935.3.15）が「其要點を拔萃して、記事本末體となし」たのに基づき、語句の読みは漢音を基本とした西野古海『十八史略讀本』（木村文三郞　1877）にだいたい従った。
字下げした本文は『讀本』が依拠した岩垣龍渓校訂標記・孫松苗再校増補『十八史略』から省略部分を補ったもので、抜萃・紀事本末体と原文の編年体との相違を知る便宜に付け加えた。これでは抜萃にならないが、漢音による読みの一伝統があったことを確かめる意味がある。すでに『讀本』でも当時の慣用に従っている語句はあるが、現代の漢文訓読の「常識」から見れば「仮字遣」の歴史的変遷と「正則」（森鷗外「假名遣意見」）の資料として参考になる点が多いはずである。
HTML・書き下し文への変換は拙作「漢文エディタ」により、助字等の一部を手直しした。表示していないが入力原文も収め、同エディタで白文・訓読漢文（MS-Word）等、種々の変換を可能にした。注釈は入力者の心覚えに過ぎない。

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太古（たいこ）

天皇氏（てんくわうし）以（もつ）^テ_二木徳（もくとく）（＊五行を漢音で呼べば「ぼくくわときんすゐ」だろうが、「もくくわどごんすゐ」の慣用がすでに固まっていたのだろう。）^ヲ_一王（わう）^タリ。歳（とし）^ハ起（おこ）^リ_二攝提（せつてい）^ニ_一、無爲（ぶゐ）^ニシテ而化（くわ）^ス。兄弟（けいてい）十二人、各（おの）^〻（おの）一萬（まん）八千歳（せい）。地皇氏（ちくわうし）以（もつ）^テ_二火德（くわとく）^ヲ_一王（わう）^タリ。兄弟（けいてい）十二人、各（おの）〻（おの）一萬（まん）八千歳（せい）。人皇氏（じんくわうし）兄弟（けいてい）九人、分（わかち）^テ長（ちやう）^タリ_二九州（きうしう）^ニ_一。凡（およそ）一百五十世（せい）、合（あは）^セテ四萬（まん）五千六百年（ねん）。人皇（じんくわう）以後（いこ）、有（あ）^リ_レ曰（い）^フモノ_二有巣氏（いうさうし）^ト_一。搆（かま）^ヘ_レ木（き）^ヲ爲（つく）^リ_レ巣（さう）^ヲ、食（くら）^フ_二木實（ぼくじつ）（＊原文「もくじつ」）^ヲ_一。至（いた）^リ_二燧人氏（すいじんし）^ニ_一、始（はじめ）^テ鑽（きり）^テ_レ燧（すい）^ヲ、敎（をし）^フ_二人（ひと）^ニ火食（くわしよく）^ヲ_一。在（あ）^リ_二書契（しよけい）以前（いせん）^ニ_一、年代（ねんだい）・國都（こくと）不（ず）_レ可（べ）^カラ_レ攷（かんが）^フ。

天皇氏　木徳を以て王たり。歳は攝提に起り、無爲にして化す。兄弟十二人、各〻一萬八千歳。　地皇氏　火德を以て王たり。兄弟十二人、各〻一萬八千歳。　人皇氏　兄弟九人、分て九州に長たり。凡一百五十世、合せて四萬五千六百年。人皇以後、有巣氏と曰ふもの有り。木を搆へ巣を爲り、木實を食ふ。燧人氏に至り、始て燧を鑽て、人に火食を敎ふ。書契以前に在り、年代・國都攷ふべからず。

天皇氏　｜以（もつ）テ 2( ｜木徳（もくとく）ヲ )1 ｜王（わう）タリ。｜歳（とし）ハ｜起（おこ）リ 2( ｜攝提（せつてい）ニ )1 、｜無爲（ぶゐ）ニシテ而｜化（くわ）ス。｜兄弟（けいてい）十二人、｜各（おの）｜〻（おの）一｜萬（まん）八千｜歳（せい）。地皇氏　｜以（もつ）テ 2( ｜火德（くわとく）ヲ )1 ｜王（わう）タリ。｜兄弟（けいてい）十二人、｜各（おの）｜〻（おの）一｜萬（まん）八千｜歳（せい）。人皇氏｜兄弟（けいてい）九人、｜分（わかち）テ｜長（ちやう）タリ 2( ｜九州（きうしう）ニ )1 。｜凡（およそ）一百五十｜世（せい）、｜合（あは）セテ四｜萬（まん）五千六百｜年（ねん）。｜人皇（じんくわう）｜以後（いこ）、｜有（あ）リ^｜曰（い）フモノ 2( ｜有巣氏（いうさうし）ト )1 。｜搆（かま）ヘ^｜木（き）ヲ｜爲（つく）リ^｜巣（さう）ヲ、｜食（くら）フ 2( ｜木實（ぼくじつ）ヲ )1 。｜至（いた）リ 2( ｜燧人氏（すいじんし）ニ )1 、｜始（はじめ）テ｜鑽（きり）テ^｜燧（すい）ヲ、｜敎（をし）フ 2( ｜人（ひと）ニ｜火食（くわしよく）ヲ )1 。｜在（あ）リ 2( ｜書契（しよけい）｜以前（いせん）ニ )1 、｜年代（ねんだい）・｜國都（こくと）｜不（ず）^｜可（べ）カラ^｜攷（かんが）フ。

三皇（さんくわう）

太昊（たいかう）伏羲氏（ふくきし）

其一　始造_二書契_一　　（一）

太昊（たいかう）伏羲氏（ふくきし）^ハ風姓（ふうせい）^ナリ。代（かは）^リテ_二燧人氏（すゐじんし）^ニ_一而王（わう）^タリ。始（はじ）^メテ畫（くわく）^ス_二八卦（くわ）^ヲ_一。造（つく）^リテ_二書契（しよけい）^ヲ_一、以（もつ）^テ代（か）^フ_二結繩（けつじよう）之（の）政（まつりごと）^ニ_一。制（せい）^シ_二嫁娶（かしゆ）^ヲ_一、以（もつ）^テ_二儷皮（れいひ）^ヲ_一爲（な）^ス_レ禮（れい）^ト。結（むす）^ビ_二網罟（ばうこ）^ヲ_一、敎（をし）^フ_二佃漁（てんぎよ）^ヲ_一。養（やしな）^ヒテ_二犠牲（ぎせい）^ヲ_一、以（もつ）^テ充（あ）^ツ_二庖廚（はうちゆ）^ニ_一。故（^ゆゑ）^ニ曰（^い）^フ_二庖犧（^はうき）^ト_一。都（^みやこ）^ス_二於陳（^ちん）^ニ_一。

太昊伏羲氏は風姓なり。燧人氏に代りて王たり。始めて八卦を畫す。書契を造りて、以て結繩の政に代ふ。嫁娶を制し、儷皮を以て禮と爲す。網罟を結び、佃漁を敎ふ。犠牲を養ひて、以て庖廚に充つ。故に庖犧と曰ふ。陳に都す。

｜太昊（たいかう）｜伏羲氏（ふくきし）ハ｜風姓（ふうせい）ナリ。｜代（かは）リテ 2( ｜燧人氏（すゐじんし）ニ )1 而｜王（わう）タリ。｜始（はじ）メテ｜畫（くわく）ス 2( 八｜卦（くわ）ヲ )1 。｜造（つく）リテ 2( ｜書契（しよけい）ヲ )1 、｜以（もつ）テ｜代（か）フ 2( ｜結繩（けつじよう）｜之（の）｜政（まつりごと）ニ )1 。｜制（せい）シ 2( ｜嫁娶（かしゆ）ヲ )1 、｜以（もつ）テ 2( ｜儷皮（れいひ）ヲ )1 ｜爲（な）ス^｜禮（れい）ト。｜結（むす）ビ 2( ｜網罟（まうこ）ヲ )1 、｜敎（をし）フ 2( ｜佃漁（でんぎよ）ヲ )1 。｜養（やしな）ヒテ 2( ｜犠牲（ぎせい）ヲ )1 、｜以（もつ）テ｜充（あ）ツ 2( ｜庖廚（はうちう）ニ )1 。｜故（ゆゑ）ニ｜曰（い）フ 2( ｜庖犧（はうぎ）ト )1 。｜都（みやこ）ス 2( 於｜陳（ちん）ニ )1 。

注釈 ● 燧人氏 — 天地開闢の天皇氏・地皇氏・人皇氏以後、有巣氏、燧人氏と、伏羲以前・書契以前の王たちがいた。これらの交替を鄒衍以後「五行相勝」によって、劉向以後「五行相生」によって説いたが、岩垣松苗（龍渓孫）はどちらも「取るに足らず」とする。　 ● 庖犧 — 「三皇本紀」に「蛇身（だしん）人首（じんしう）」とし、「華胥」を母とするという。後出「華胥之國」「上僊帝郷」と符節を合わせたものか。　 ● 儷皮 — 「儷」は「駢儷」の儷。「並ぶ・一対」の意。鳥と獣の皮を礼としたという。裘と敷皮の組み合わせも考えられるか。　 ● 佃漁 — 「佃」（畋）は禽獣を獲る意。　 ● 犠牲 — 「牲」は「牛羊豕（ぎうやうし）」を指し、「犠」は「色の純なる者」の意という。　 ● 充庖廚 — 原文「以庖廚」。岩垣龍渓は「以充庖廚」とするのがよいとした。　 ● 都 — 宗廟・先君の霊廟のあるところを「邑」に対して「都」と称した。伏羲氏は陳に遠祖がいたか。この本文では注として蛇足であるともいう。　

其二　始作_二笙簧_一　　（二）

庖犧（はうき）崩（ほう）^ズ。女媧氏（ぢよくわし）立（た）^ツ。亦（ま）^タ風姓（ふうせい）^ナリ。始（はじめ）^テ作（つく）^ル_二笙簧（しやうくわう）^ヲ_一。諸侯（しよこう）^ニ有（あ）^リ_二共工氏（きようこうし）^ナルモノ_一。與（と）_二祝融（しくえう）（＊現在の辞書では「しゆくゆう」。以下、同音で辞書の旧仮名標記と食い違うものは注記する。）_一戰（たたか）^ヒ、不（ず）^シテ_レ勝（か）^タ而怒（いか）^リ、乃（すなは）^チ頭（かうべ）觸（ふ）^ル_二不周山（ふしうさん）^ニ_一。崩（くづ）^ル。天柱（てんちゆ）折（くじ）^ケ、地維（ちゐ）缺（か）^ク。女媧（ぢよくわ）乃（すなは）^チ錬（ね）^リテ_二五色（ごしき）^ノ石（いし）^ヲ_一、以（もつ）^テ補（おぎな）^ヒ_レ天（てん）^ヲ、斷（た）^チテ_二鰲（がう）^ノ足（あし）^ヲ_一、以（もつ）^テ立（た）^テ_二四極（しきよく）^ヲ_一、聚（あつ）^メテ_二蘆灰（ろくわい）^ヲ_一、以（もつ）^テ止（とど）^ム_二滔水（たうすい）（＊たうすゐ）^ヲ_一。於（おい）^テ_レ是（ここ）^ニ、地（ち）平（たひら）^カニ天（てん）成（な）^リ、不（ず）_レ改（あらた）^メ_二舊物（きうぶつ）^ヲ_一。

庖犧崩ず。女媧氏立つ。亦た風姓なり。始て笙簧を作る。諸侯に共工氏なるもの有り。祝融と戰ひ、勝たずして怒り、乃ち頭不周山に觸る。崩る。天柱折け、地維缺く。女媧乃ち五色の石を錬りて、以て天を補ひ、鰲の足を斷ちて、以て四極を立て、蘆灰を聚めて、以て滔水を止む。是に於て、地平かに天成り、舊物を改めず。

｜庖犧（はうぎ）｜崩（ほう）ズ。｜女媧氏（じよくわし）｜立（た）ツ。｜亦（ま）タ｜風姓（ふうせい）ナリ。｜始（はじめ）テ｜作（つく）ル 2( ｜笙簧（しやうくわう）ヲ )1 。｜諸侯（しよこう）ニ｜有（あ）リ 2( ｜共工氏（きようこうし）ナルモノ )1 。｜與（と） 2( ｜祝融（しゆくゆう） )1 ｜戰（たたか）ヒ、｜不（ず）シテ^｜勝（か）タ而｜怒（いか）リ、｜乃（すなは）チ｜頭（かうべ）｜觸（ふ）ル 2( ｜不周山（ふしうざん）ニ )1 。｜崩（くづ）ル。｜天柱（てんちう）｜折（くだ）ケ、｜地維（ちゐ）｜缺（か）ク。｜女媧（じよくわ）｜乃（すなは）チ｜錬（ね）リテ 2( ｜五色（ごしき）ノ｜石（いし）ヲ )1 、｜以（もつ）テ｜補（おぎな）ヒ^｜天（てん）ヲ、｜斷（た）チテ 2( ｜鰲（がう）ノ｜足（あし）ヲ )1 、｜以（もつ）テ｜立（た）テ 2( 四｜極（きよく）ヲ )1 、｜聚（あつ）メテ 2( ｜蘆灰（ろくわい）ヲ )1 、｜以（もつ）テ｜止（とど）ム 2( ｜滔水（たうすゐ）ヲ )1 。｜於（おい）テ^｜是（ここ）ニ、｜地（ち）｜平（たひら）カニ｜天（てん）｜成（な）リ、｜不（ず）^｜改（あらた）メ 2( ｜舊物（きうぶつ）ヲ )1 。

注釈 ● 女媧氏 — 媧または女媧。伏羲氏の妻とも妹ともいう。　 ● 祝融 — 神人分離を行った顓頊の代に夏官の火正の職にあった黎。顓頊の子という。諸侯の長という位置づけか。『列子』に基づく話らしいが、そのまま読むと五帝の顓頊の子と女媧とは年代が合わない。　 ● 觸 — 突く・ぶつける。　 ● 五色 — 青赤黄白黒（せいせきくわうはくこく）。　 ● 断 — 絶える場合は音「タン」、断ち切る場合は音「ダン」。　 ● 鰲 — 鼇。どちらもオオウミガメ。伝承では背に蓬莱を負うという。

炎帝（えんてい）神農氏（しんのうし）　　（三）

炎帝（えんてい）神農氏（しんのうし）^ハ姜姓（きやうせい）^ナリ。繼（つ）^イデ_二風姓（ふうせい）^ニ_一而立（た）^ツ。斵（き）^リテ_レ木（き）^ヲ爲（つく）^リ_レ耜（し）（＊読本「すき」）^ヲ、揉（たわ）^メテ_レ木（き）^ヲ爲（つく）^リ_レ耒（らい）（＊読本「すき」）^ヲ、始（はじ）^メテ敎（をし）^ヘ_レ畊（かう）^ヲ、作（な）^ス_二蜡（さ）^ノ祭（まつり）^ヲ_一。以（もつ）^テ_二赭鞭（しやべん）^ヲ_一鞭（むちう）^チ_二草木（さうもく）^ヲ_一、嘗（な）^メテ_二百草（はくさう）^ヲ_一、始（はじ）^メテ有（あ）^リ_二醫藥（いやく）_一。敎（をし）^ヘテ_レ人（ひと）^ニ日中（じつちう）^ニ爲（な）^シ_レ市（いち）^ヲ、交易（かうえき）^シテ而退（しりぞ）^カシム。都（みやこ）^シ_二於陳（ちん）^ニ_一、徙（うつ）^ル_二曲阜（きよくふ）^ニ_一。

炎帝神農氏は姜姓なり。風姓に繼ぎて立つ。木を斵りて耜を爲り、木を揉めて耒を爲り、始めて畊を敎へ、蜡の祭を作す。赭鞭を以て草木を鞭ち、百草を嘗めて、始めて醫藥有り。人に敎へて日中に市を爲し、交易して退かしむ。陳に都し、曲阜に徙る。

｜炎帝（えんてい）｜神農氏（しんのうし）ハ｜姜姓（きやうせい）ナリ。｜繼（つ）ギテ 2( ｜風姓（ふうせい）ニ )1 而｜立（た）ツ。｜斵（けづ）リテ^｜木（き）ヲ｜爲（つく）リ^｜耜（し）ヲ、｜揉（た）メテ^｜木（き）ヲ｜爲（つく）リ^｜耒（らい）ヲ、｜始（はじ）メテ｜敎（をし）ヘ^｜畊（かう）ヲ、｜作（な）ス 2( ｜蜡（さ）ノ｜祭（まつり）ヲ )1 。｜以（もつ）テ 2( ｜赭鞭（しやべん）ヲ )1 ｜鞭（むちう）チ 2( ｜草木（さうもく）ヲ )1 、｜嘗（な）メテ 2( 百｜草（さう）ヲ )1 、｜始（はじ）メテ｜有（あ）リ 2( ｜醫藥（いやく） )1 。｜敎（をし）ヘテ^｜人（ひと）ニ｜日中（につちう）ニ｜爲（な）シ^｜市（いち）ヲ、｜交易（かうえき）シテ而｜退（しりぞ）カシム。｜都（みやこ）シ 2( 於｜陳（ちん）ニ )1 、｜徙（うつ）ル 2( ｜曲阜（きよくふ）ニ )1 。

注釈

黄帝（くわうてい）軒轅氏（けんえんし）

其一　作_二舟車_一以濟_レ不_レ通　　（四）

黄帝（くわうてい）軒轅氏（けんえんし）（＊けんゑんし）^ハ公孫姓（こうそんせい）^ナリ。又（ま）^タ曰（いは）^ク、姫姓（きせい）^ナリト。名（な）^ハ軒轅（けんえん）。炎帝（えんてい）^ノ世（よ）衰（おとろ）^ヘ、諸侯（しよこう）相（あひ）侵伐（しんばつ）^ス。軒轅（けんゑん）乃（すなは）^チ習（なら）^ヒ_レ用（もち）^{ウルコトヲ}_二干戈（かんくわ）^ヲ_一、以（もつ）^テ征（せい）^ス_二不享（ふきやう）^ヲ_一。諸侯（しよこう）咸（みな）歸（き）^ス_レ之（これ）^ニ。與（と）_二炎帝（えんてい）_一戰（たたか）^ヒテ_二于阪泉（はんせん）之（の）野（や）^ニ_一克（か）^ツ_レ之（これ）^ニ。蚩尤（しいう）作（おこ）^ス_レ亂（らん）^ヲ。其（そ）^ノ人（ひと）銅鐵（とうてつ）^ノ額（ひたひ）、能（よ）^ク作（な）^ス_二大霧（たいむ）^ヲ_一。軒轅（けんえん）作（つく）^リ_二指南車（しなむしや）^ヲ_一、與（と）_二蚩尤（しいう）_一戰（たたか）^ツテ_二於涿鹿（たくろく）之（の）野（や）^ニ_一禽（とりこ）^ニシ_レ之（これ）^ヲ、遂（つひ）^ニ代（かは）^リテ_二炎帝（えんてい）^ニ_一爲（た）^リ_二天子（てんし）_一。作（つく）^リ_二舟車（しうしや）^ヲ_一以（もつ）^テ濟（わた）^ス_レ不（ざ）^ルヲ_レ通（つう）^ゼ。得（え）^テ_二風后（ふうこう）^ヲ_一爲（な）^シ_レ相（しやう）^ト、力牧（りよくぼく）^ヲ爲（な）^ス_レ將（しやう）^ト。受（う）^ケ_二河圖（かと）^ヲ_一、見（み）^テ_二日月（じつげつ）星辰（せいしん）之（の）象（しやう）^ヲ_一、始（はじ）^メテ有（あ）^リ_二星官（せいくわん）之（の）書（しよ）_一。

黄帝軒轅氏は公孫姓なり。又た曰く、姫姓なりと。名は軒轅。炎帝の世衰へ、諸侯相侵伐す。軒轅乃ち干戈を用ふることを習ひ、以て不享を征す。諸侯咸之に歸す。炎帝と阪泉の野に戰ひて之に克つ。蚩尤亂を作す。其の人銅鐵の額、能く大霧を作す。軒轅指南車を作り、蚩尤と涿鹿の野に戰ひて之を禽にし、遂に炎帝に代りて天子たり。舟車を作り以て通ぜざるを濟す。風后を得て相と爲し、力牧を將と爲す。河圖を受け、日月星辰の象を見て、始めて星官の書有り。

｜黄帝（くわうてい）｜軒轅氏（けんゑんし）ハ｜公孫姓（こうそんせい）ナリ。｜又（ま）タ｜曰（いは）ク、｜姫姓（きせい）ナリト。｜名（な）ハ｜軒轅（けんゑん）。｜炎帝（えんてい）ノ｜世（よ）｜衰（おとろ）ヘ、｜諸侯（しよこう）｜相（あひ）｜侵伐（しんばつ）ス。｜軒轅（けんゑん）｜乃（すなは）チ｜習（なら）ヒ^｜用（もち）フルコトヲ 2( ｜干戈（かんくわ）ヲ )1 、｜以（もつ）テ｜征（せい）ス 2( ｜不享（ふきやう）ヲ )1 。｜諸侯（しよこう）｜咸（みな）｜歸（き）ス^｜之（これ）ニ。｜與（と） 2( ｜炎帝（えんてい） )1 ｜戰（たたか）ヒテ 2( 于｜阪泉（はんせん）｜之（の）｜野（や）ニ )1 ｜克（か）ツ^｜之（これ）ニ。｜蚩尤（しいう）｜作（な）ス^｜亂（らん）ヲ。｜其（そ）ノ｜人（ひと）｜銅鐵（どうてつ）ノ｜額（ひたひ）、｜能（よ）ク｜作（おこ）ス 2( ｜大霧（たいむ）ヲ )1 。｜軒轅（けんゑん）｜作（つく）リ 2( ｜指南車（しなんしや）ヲ )1 、｜與（と） 2( ｜蚩尤（しいう） )1 ｜戰（たたか）ヒテ 2( 於｜涿鹿（たくろく）｜之（の）｜野（や）ニ )1 ｜禽（きん）ニシ^｜之（これ）ヲ、｜遂（つひ）ニ｜代（かは）リテ 2( ｜炎帝（えんてい）ニ )1 ｜爲（な）ル 2( ｜天子（てんし）ト )1 。｜作（つく）リテ 2( ｜舟車（しうしや）ヲ )1 ｜以（もつ）テ｜濟（わた）ス^｜不（ざ）ルヲ^｜通（つう）ゼ。｜得（え）テ 2( ｜風后（ふうこう）ヲ )1 ｜爲（な）シ^｜相（しやう）ト、｜力牧（ｓりよくぼく）ヲ｜爲（な）ス^｜將（しやう）ト。｜受（う）ケ 2( ｜河圖（かと）ヲ )1 、｜見（み）テ 2( ｜日月（じつげつ）｜星辰（せいしん）｜之（の）｜象（しやう）ヲ )1 、｜始（はじ）メテ｜有（あ）リ 2( ｜星官（せいくわん）｜之（の）｜書（しよ） )1 。

注釈

其二　華胥之國　　（五）

嘗（かつ）^テ晝（ひる）寢（い）^ネ、夢（ゆめ）^ニ遊（あそ）^ビ_二華胥（くわしよ）之（の）國（くに）^ニ_一、怡然（いぜん）^トシテ自得（じとく）^ス。其（そ）^ノ後（のち）天下（てんか）大（おほい）^ニ治（をさま）^リ、幾（ほとん）^ド若（ごと）^シ_二華胥（くわしよ）^ノ_一。世（よ）^ニ傳（つた）^フ、黄帝（くわうてい）采（と）^ツテ_レ銅（どう）^ヲ鑄（い）^ル_レ鼎（かなへ）^ヲ。鼎（かなへ）成（な）^ル。有（あ）^リ_レ龍（りよう）垂（た）^レ_二胡髯（こぜん）^ヲ_一下（くだ）^リ迎（むか）^フ。帝（てい）騎（の）^ツテ_レ龍（りよう）^ニ上（のぼ）^ル_レ天（てん）^ニ。羣臣（ぐんしん）・後宮（こうきう）從（したが）^フ者（もの）七十餘人（しちじうよにん）。小臣（せうしん）不（ず）_レ得（え）_レ上（のぼ）^ルヲ。悉（ことごと）^ク持（じ）^ス_二龍髯（りようぜん）^ヲ_一。髯（ひげ）拔（ぬ）^ク。墮（おと）^ス_レ弓（おと）^ヲ。抱（いだ）^イテ_二其（そ）^ノ弓（ゆみ）^ヲ_一而號（な）^ク。後世（こうせい）名（なづけ）^テ_二其（そ）^ノ處（ところ）^ヲ_一曰（い）^ヒ_二鼎湖（ていこ）^ト_一、其（そ）^ノ弓（ゆみ）^ヲ曰（い）^フ_二烏號（うがう）^ト_一。

嘗て晝寢ね、夢に華胥の國に遊び、怡然として自得す。其の後天下大に治り、幾ど華胥の若し。世に傳ふ、黄帝銅を采つて鼎を鑄る。鼎成る。龍有り胡髯を垂れ下り迎ふ。帝龍に騎つて天に上る。羣臣・後宮從ふ者七十餘人。小臣上るを得ず。悉く龍髯を持す。髯拔く。弓を墮す。其の弓を抱いて號く。後世其の處を名て鼎湖と曰ひ、其の弓を烏號と曰ふ。

｜嘗（かつ）テ｜晝（ひる）｜寢（い）ネ、｜夢（ゆめ）ニ｜遊（あそ）ビ 2( ｜華胥（くわしよ）｜之（の）｜國（くに）ニ )1 、｜怡然（いぜん）トシテ｜自得（じとく）ス。｜其（そ）ノ｜後（のち）｜天下（てんか）｜大（おほい）ニ｜治（をさま）リ、｜幾（ほとん）ド｜若（ごと）シ 2( ｜華胥（くわしよ）ノ )1 。｜世（よ）ニ｜傳（つた）フ、｜黄帝（くわうてい）｜采（と）ツテ^｜銅（どう）ヲ｜鑄（い）ル^｜鼎（かなへ）ヲ。｜鼎（かなへ）｜成（な）ル。｜有（あ）リ^｜龍（りよう）｜垂（た）レ 2( ｜胡髯（こぜん）ヲ )1 ｜下（くだ）リ｜迎（むか）フ。｜帝（てい）｜騎（の）ツテ^｜龍（りよう）ニ｜上（のぼ）ル^｜天（てん）ニ。｜羣臣（ぐんしん）・｜後宮（こうきう）｜從（したが）フ｜者（もの）｜七十餘人（しちじうよにん）。｜小臣（せうしん）｜不（ず）^｜得（え）^｜上（のぼ）ルヲ。｜悉（ことごと）ク｜持（じ）ス 2( ｜龍髯（りようぜん）ヲ )1 。｜髯（ひげ）｜拔（ぬ）ク。｜墮（おと）ス^｜弓（おと）ヲ。｜抱（いだ）イテ 2( ｜其（そ）ノ｜弓（ゆみ）ヲ )1 而｜號（な）ク。｜後世（こうせい）｜名（なづけ）テ 2( ｜其（そ）ノ｜處（ところ）ヲ )1 ｜曰（い）ヒ 2( ｜鼎湖（ていこ）ト )1 、｜其（そ）ノ｜弓（ゆみ）ヲ｜曰（い）フ 2( ｜烏號（うがう）ト )1 。

注釈

五帝（ごてい）

其一　都_二平陽_一　　（六）

帝堯（ていげう）陶唐氏（たうたうし）^ハ、伊祁姓（いきせい）^ナリ。或（あるひ）^ハ（＊辞書「あるいは」）曰（いは）^ク、名（な）^ハ放勛（はうくん）^ナリト。帝嚳（ていこく）^ノ子（こ）也（なり）^ト。其（そ）^ノ仁（じん）^ハ如（ごと）^ク_レ天（てん）^ノ、其（そ）^ノ知（ち）^ハ如（ごと）^ク_レ神（しん）^ノ、就（つ）^ケバ_レ之（これ）^ニ如（ごと）^ク_レ日（ひ）^ノ、望（のぞ）^メバ_レ之（これ）^ヲ如（ごと）^シ_レ雲（くも）^ノ。都（みやこ）^ス_二平陽（へいやう）^ニ_一。茆茨（ばうし）不（ず）_レ翦（き）^ラ、土階（とかい）三等（さんとう）^ノミ。

帝堯陶唐氏は、伊祁姓なり。或は曰く、名は放勛なりと。帝嚳の子なりと。其の仁は天の如く、其の知は神の如く、之に就けば日の如く、之を望めば雲の如し。平陽に都す。茆茨翦らず、土階三等のみ。

｜帝堯（ていげう）｜陶唐氏（たうたうし）ハ、｜伊祁姓（いきせい）ナリ。｜或（あるひ）ハ｜曰（いは）ク、｜名（な）ハ｜放勛（はうくん）ナリト。｜帝嚳（ていこく）ノ｜子（こ）｜也（なり）ト。｜其（そ）ノ｜仁（じん）ハ｜如（ごと）ク^｜天（てん）ノ、｜其（そ）ノ｜知（ち）ハ｜如（ごと）ク^｜神（かみ）ノ、｜就（つ）ケバ^｜之（これ）ニ｜如（ごと）ク^｜日（ひ）ノ、｜望（のぞ）メバ^｜之（これ）ヲ｜如（ごと）シ^｜雲（くも）ノ。｜都（みやこ）ス 2( ｜平陽（へいやう）ニ )1 。｜茆茨（ぼうし）｜不（ず）^｜翦（き）ラ、｜土階（どかい）｜三等（さんとう）ノミ。

注釈

其二　蓂莢　　（七）

有（あ）^リ_レ草（くさ）生（せい）^ス_レ庭（てい）^ニ。十五日（じうごにち）以前（いせん）^ハ、日（ひゞ）^ニ生（せい）^シ_二一葉（いつえふ）^ヲ_一、以後（いこう）^ハ日（ひゞ）^ニ落（おと）^ス_二一葉（いつえふ）^ヲ_一。月（つき）小（せう）^ニシテ盡（つ）^クレバ、則（すなは）^チ一葉（いつえふ）厭（かは）^イテ而不（ず）_レ落（お）^チ。名（なづ）^ケテ曰（い）^フ_二蓂莢（めいかふ）（＊「莢」は辞書「けふ」。但し「狹・峽・狡」等みな「かふ」とする。）^ト_一。觀（み）^テ_レ之（これ）^ヲ以（もつ）^テ知（し）^ル_二旬朔（しゆんさく）^ヲ_一。

草有り庭に生す。十五日以前は、日に一葉を生し、以後は日に一葉を落す。月小にして盡くれば、則ち一葉厭いて落ちず。名けて蓂莢と曰ふ。之を觀て以て旬朔を知る。

｜有（あ）リ^｜草（くさ）｜生（しやう）ズ^｜庭（てい）ニ。｜十五日（じうごにち）｜以前（いぜん）ハ、｜日（ひ）ニ｜生（しやう）ジ 2( ｜一葉（いちえふ）ヲ )1 、｜以後（いご）ハ｜日（ひ）ニ｜落（おと）ス 2( ｜一葉（いちえふ）ヲ )1 。｜月（つき）｜小（せう）ニシテ｜盡（つ）クレバ、｜則（すなは）チ｜一葉（いちえふ）｜厭（えん）シテ而｜不（ず）^｜落（お）チ。｜名（なづ）ケテ｜曰（い）フ 2( ｜蓂莢（めいけふ）ト )1 。｜觀（み）テ^｜之（これ）ヲ｜以（もつ）テ｜知（し）ル 2( ｜旬朔（じゆんさく）ヲ )1 。

注釈

其三　帝力何有_二於我_一哉　　（八）

治（をさ）^ムルコト_二天下（てんか）^ヲ_一五十年（ごじうねん）、不（ず）_レ知（し）^ラ_二天下（てんか）治（をさ）^マル歟（か）、不（ざ）^ル_レ治（をさ）^マラ歟（か）、億兆（おくてう）願（ねが）^フ_レ戴（いただ）^クコトヲ_レ己（おのれ）^ヲ歟（か）、不（ざ）^ル_レ願（ねが）^ハ_レ戴（いただ）^クコトヲ_レ己（おのれ）^ヲ歟（か）^ヲ_一。問（と）^フニ_二左右（さいう）^ニ_一不（ず）_レ知（し）^ラ。問（と）^フニ_二外朝（ぐわいてう）^ニ_一不（ず）_レ知（し）^ラ。問（と）^フニ_二在野（さいや）^ニ_一不（ず）_レ知（し）^ラ。乃（すなは）^チ微服（びふく）^シテ遊（あそ）^ビ_二康衢（かうく）^ニ_一、聞（き）^クニ_二童謠（とうえう）^ヲ_一曰（いは）^ク、立（た）^ツルハ_二我（わ）^ガ烝民（しようみん）^ヲ_一、莫（な）^シ_レ匪（あら）^ザル_二爾（なむち）^ノ極（きよく）^ニ_一。不（ず）_レ識（し）^ラ不（ず）_レ知（し）^ラ、順（したが）^フト_二帝（てい）之（の）則（のり）^ニ_一。有（あ）^リ_二老人（らうじん）_一、含（ふく）^ミ_レ哺（ほ）^ヲ鼓（つづみう）^チ_レ腹（はら）^ヲ、撃（う）^チテ_レ壤（じやう）^ヲ而歌（うた）^ウテ曰（いは）^ク、日（ひ）出（い）^デテ而作（さく）^シ、日（ひ）入（い）^リテ而息（いこ）^ヒ、鑿（ほ）^リテ_レ井（ゐ）^ヲ而飲（の）^ミ、畊（たかへ）^シテ_レ田（た）^ヲ而食（くら）^フ。帝力（ていりよく）何（なん）^ゾ有（あ）^ラン_二於我（われ）^ニ_一哉（や）^ト。

天下を治むること五十年、天下治まるか、治まらざるか、億兆己を戴くことを願ふか、己を戴くことを願はざるかを知らず。左右に問ふに知らず。外朝に問ふに知らず。在野に問ふに知らず。乃ち微服して康衢に遊び、童謠を聞くに曰く、我が烝民を立つるは、爾の極に匪ざる莫し。識らず知らず、帝の則に順ふと。老人有り、哺を含み腹を鼓ち、壤を撃ちて歌うて曰く、日出でて作し、日入りて息ひ、井を鑿りて飲み、田を畊して食ふ。帝力何ぞ我に有らんやと。

｜治（をさ）ムルコト 2( ｜天下（てんか）ヲ )1 ｜五十年（ごじうねん）、｜不（ず）^｜知（し）ラ 2( ｜天下（てんか）｜治（をさ）マル｜歟（か）、｜不（ざ）ル^｜治（をさ）マラ｜歟（か）、｜億兆（おくてう）｜願（ねが）フ^｜戴（いただ）クコトヲ^｜己（おのれ）ヲ｜歟（か）、｜不（ざ）ル^｜願（ねが）ハ^｜戴（いただ）クコトヲ^｜己（おのれ）ヲ｜歟（か）ヲ )1 。｜問（と）フニ 2( ｜左右（さいう）ニ )1 ｜不（ず）^｜知（し）ラ。｜問（と）フニ 2( ｜外朝（ぐわいてう）ニ )1 ｜不（ず）^｜知（し）ラ。｜問（と）フニ 2( ｜在野（ざいや）ニ )1 ｜不（ず）^｜知（し）ラ。｜乃（すなは）チ｜微服（びぶく）シテ｜遊（あそ）ビ 2( ｜康衢（かうく）ニ )1 、｜聞（き）クニ 2( ｜童謠（どうえう）ヲ )1 ｜曰（いは）ク、｜立（た）ツルハ 2( ｜我（わ）ガ｜烝民（しようみん）ヲ )1 、｜莫（な）シ^｜匪（あら）ザル 2( ｜爾（なんぢ）ノ｜極（きよく）ニ )1 。｜不（ず）^｜識（し）ラ｜不（ず）^｜知（し）ラ、｜順（したが）フト 2( ｜帝（てい）｜之（の）｜則（そく）ニ )1 。｜有（あ）リ 2( ｜老人（らうじん） )1 、｜含（ふく）ミ^｜哺（ほ）ヲ｜鼓（つづみう）チ^｜腹（はら）ヲ、｜撃（う）チテ^｜壤（じやう）ヲ而｜歌（うた）ウテ｜曰（いは）ク、｜日（ひ）｜出（い）デテ而｜作（さく）シ、｜日（ひ）｜入（い）リテ而｜息（いこ）ヒ、｜鑿（うが）チテ^｜井（ゐ）ヲ而｜飲（の）ミ、｜畊（たがや）シテ^｜田（た）ヲ而｜食（くら）フ。｜帝力（ていりよく）｜何（なん）ゾ｜有（あ）ラン 2( 於｜我（われ）ニ )1 ｜哉（や）ト。

注釈

其四　華封人　　（九）

堯（げう）觀（み）^ル_二于華（くわ）^ニ_一。華（くわ）^ノ封人（ほうじん）曰（いは）^ク、嘻（あ）^ア、請（こ）^フ祝（しく）^セン_二聖人（せいじん）^ヲ_一。使（し）^メント_三聖人（せいじん）^ヲシテ壽富（しうふう）^ニシテ多（おほ）^カラ_二男子（だんし）_一。堯（げふ）曰（いは）^ク、辭（じ）^ス。多（おほ）^ケレバ_二男子（だんし）_一則（すなは）^チ多（おほ）^シ_レ懼（おそれ）。富（と）^メバ則（すなは）^チ多（おほ）^シ_レ事（こと）。壽（いのちなが）^ケレバ則（すなは）^チ多（おほ）^シト_レ辱（はぢ）。封人（ほうじん）曰（いは）^ク、天（てん）生（せい）^シ_二萬民（ばんみん）^ヲ_一、必（かなら）^ズ授（さづ）^ク_二之（これ）^ニ職（しよく）^ヲ_一。多（おほ）^クシテ_二男子（だんし）_一而授（さづ）^ケバ_二之（これ）^ニ職（しよく）^ヲ_一、何（なん）^ノ懼（おそれ）^カ之（こ）^レ有（あ）^ラン。富（と）^ンデ而使（し）^メバ_二人（ひと）^ヲシテ分（わか）^タ_一レ之（これ）^ヲ、何（なん）^ノ事（こと）^カ之（こ）^レ有（あ）^ラン。天下（てんか）有（あ）^レバ_レ道（みち）、與（と）_レ物（もの）皆（みな）昌（さか）^エ、天下（てんか）無（な）^クンバ_レ道（みち）、修（をさ）^メテ_レ德（とく）^ヲ就（つ）^ク_レ閒（かん）^ニ。千載（せんぜい）厭（いと）^ヘバ_レ世（よ）^ヲ、去（さ）^ツテ而上僊（しやうせん）^シ、乘（じやう）^シ_二彼（か）^ノ白雲（はくうん）^ニ_一、至（いた）^ラン_二于帝郷（ていきやう）^ニ_一。何（なん）^ノ辱（はぢ）^カ之（こ）^レ有（あ）^ラント。堯（げう）立（た）^チテ七十年（しちじうねん）、有（あ）^リ_二九年（きうねん）之（の）水（みづ）_一。使（し）^ム_二鯀（こん）^ヲシテ治（をさ）^メ_一レ之（これ）^ヲ。九載（きうさい）弗（ず）_レ績（せき）^アラ。堯（げう）老（お）^イテ倦（う）^ム_二于勤（つとめ）^ニ_一。四嶽（しがく）擧（あ）^ゲテ_レ舜（しゆん）^ヲ、攝（せつ）-_二行（かう）^セシム天下（てんか）^ノ事（こと）^ヲ_一。堯（げう）^ノ子（こ）丹朱（たんしゆ）不肖（ふせう）^ナリ。乃（すなは）^チ薦（すす）^ム_二舜（しゆん）^ヲ於天（てん）^ニ_一。堯（げう）崩（ほう）^ジ、舜（しゆん）即（つ）^ク_レ位（くらゐ）^ニ。

堯華に觀る。華の封人曰く、嘻あ、請ふ聖人を祝せん。聖人をして壽富にして男子多からしめんと。堯曰く、辭す。男子多ければ則ち懼多し。富めば則ち事多し。壽ければ則ち辱多しと。封人曰く、天萬民を生し、必ず之に職を授く。男子多くして之に職を授けば、何の懼か之れ有らん。富んで人をして之を分たしめば、何の事か之れ有らん。天下道有れば、物と皆昌え、天下道無くんば、德を修めて閒に就く。千載世を厭はば、去つて上僊し、彼の白雲に乘し、帝郷に至らん。何の辱か之れ有らんと。堯立ちて七十年、九年の水有り。鯀をして之を治めしむ。九載績あらず。堯老いて勤に倦む。四嶽舜を擧げて、天下の事を攝行せしむ。堯の子丹朱不肖なり。乃ち舜を天に薦む。堯崩じ、舜位に即く。

｜堯（げふ）｜觀（み）ル 2( 于｜華（くわ）ニ )1 。｜華（くわ）ノ｜封人（ほうじん）｜曰（いは）ク、｜嘻（あ）ア、｜請（こ）フ｜祝（しゆく）セン 2( ｜聖人（せいじん）ヲ )1 。｜使（し）メント 3( ｜聖人（せいじん）ヲシテ｜壽富（じゆふう）ニシテ｜多（おほ）カラ 2( ｜男子（だんし） )1 。｜堯（げふ）｜曰（いは）ク、｜辭（じ）ス。｜多（おほ）ケレバ 2( ｜男子（だんし） )1 ｜則（すなは）チ｜多（おほ）シ^｜懼（おそれ）。｜富（と）メバ｜則（すなは）チ｜多（おほ）シ^｜事（こと）。｜壽（じゆ）ナレバ｜則（すなは）チ｜多（おほ）シト^｜辱（はづかしめ）。｜封人（ほうじん）｜曰（いは）ク、｜天（てん）｜生（せい）シ 2( ｜萬民（ばんみん）ヲ )1 、｜必（かなら）ズ｜授（さづ）ク 2( ｜之（これ）ニ｜職（しよく）ヲ )1 。｜多（おほ）クシテ 2( ｜男子（だんし） )1 而｜授（さづ）ケバ 2( ｜之（これ）ニ｜職（しよく）ヲ )1 、｜何（なん）ノ｜懼（おそれ）カ｜之（こ）レ｜有（あ）ラン。｜富（と）ンデ而｜使（し）メバ 2( ｜人（ひと）ヲシテ｜分（わか）タ )1^｜之（これ）ヲ、｜何（なん）ノ｜事（こと）カ｜之（こ）レ｜有（あ）ラン。｜天下（てんか）｜有（あ）レバ^｜道（みち）、｜與（と）^｜物（もの）｜皆（みな）｜昌（さか）ヘ、｜天下（てんか）｜無（な）クンバ^｜道（みち）、｜修（をさ）メテ^｜德（とく）ヲ｜就（つ）ク^｜閒（かん）ニ。｜千載（せんざい）｜厭（いと）ハバ^｜世（よ）ヲ、｜去（さ）ツテ而｜上僊（じやうせん）シ、｜乘（じやう）ジ 2( ｜彼（か）ノ｜白雲（はくうん）ニ )1 、｜至（いた）ラン 2( 于｜帝郷（ていきやう）ニ )1 。｜何（なん）ノ｜辱（はづかしめ）カ｜之（こ）レ｜有（あ）ラント。｜堯（げう）｜立（た）チテ｜七十年（しちじうねん）、｜有（あ）リ 2( ｜九年（くねん）｜之（の）｜水（みづ） )1 。｜使（し）ム 2( ｜鯀（こん）ヲシテ｜治（をさ）メ )1^｜之（これ）ヲ。｜九載（きうさい）｜弗（ず）^｜績（せき）アラ。｜堯（げう）｜老（お）イテ｜倦（う）ム 2( 于｜勤（つとめ）ニ )1 。｜四嶽（しがく）｜擧（あ）ゲテ^｜舜（しゆん）ヲ、｜攝（せつ）- 2( ｜行（かう）セシム｜天下（てんか）ノ｜事（こと）ヲ )1 。｜堯（げう）ノ｜子（こ）｜丹朱（たんしゆ）｜不肖（ふせう）ナリ。｜乃（すなは）チ｜薦（すす）ム 2( ｜舜（しゆん）ヲ於｜天（てん）ニ )1 。｜堯（げう）｜崩（ほう）ジ、｜舜（しゆん）｜即（つ）ク^｜位（くらゐ）ニ。

注釈

帝舜（ていしゆん）有虞氏（いうぐし）

其一　烝烝乂不_レ格_レ姦　　（一〇）

帝舜（ていしゆん）有虞氏（いうぐし）^ハ、姚姓（えうせい）^ナリ。或（あるひ）^ハ曰（いは）^ク、名（な）^ハ重華（ちようくわ）^ナリト。瞽瞍（こそう）之（の）子（こ）^ニシテ、顓頊（せんぎよく）六世（せい）^ノ孫（そん）也（なり）。父（ちち）惑（まど）^ヒ_二後妻（こうせい）^ニ_一、愛（あい）^シ_二少子（せうし）象（しやう）^ヲ_一、常（つね）^ニ欲（ほつ）^ス_レ殺（ころ）^サント_レ舜（しゆん）^ヲ。舜（しゆん）盡（つく）^シ_二孝悌（かうてい）之（の）道（みち）^ヲ_一、烝烝（しようしよう）^トシテ乂（をさ）^メテ不（ざ）^ラシム_レ格（いた）^ラ_レ姦（かん）^ニ。畊（たかへ）^セバ_二歴山（れきさん）^ニ_一、民（たみ）皆（みな）讓（ゆづ）^ル_レ畔（くろ）^ヲ。漁（ぎよ）^スレバ_二雷澤（らいたく）^ニ_一、人（ひと）皆（みな）讓（ゆづ）^ル_レ居（きよ）^ヲ。陶（たう）^スレバ_二河濱（かひん）^ニ_一、器（き）不（ず）_二苦窳（こゆ）^セ_一。所（ところ）_レ居（を）^ル一年（ねん）^ニ成（な）^シ_レ聚（しう）^ヲ、二年（ねん）^ニ成（な）^シ_レ邑（いふ）^ヲ、三年（ねん）^ニ成（な）^ス_レ都（と）^ヲ。堯（げう）聞（き）^キ_二之（これ）^ガ聰明（そうめい）^ヲ_一、擧（あ）^ゲ_二於畎畝（けんぼう）^ニ_一、妻（めあは）^スニ以（もつ）^テス_二二女（ぢよ）^ヲ_一。曰（い）^フ_二娥黄（がくわう）・女英（ぢよえい）^ト_一。釐（をさ）^メ-_二降（くだ）^ス于嬀汭（きぜい）^ニ_一。遂（つひ）^ニ相（しやう）^トシテ_レ堯（げう）^ニ攝（せつ）^ス_レ政（まつりごと）^ヲ。

帝舜有虞氏は、姚姓なり。或は曰く、名は重華なりと。瞽瞍の子にして、顓頊六世の孫也。父後妻に惑ひ、少子象を愛し、常に舜を殺さんと欲す。舜孝悌の道を盡し、烝烝として乂めて姦に格らざらしむ。歴山に畊せば、民皆畔を讓る。雷澤に漁すれば、人皆居を讓る。河濱に陶すれば、器苦窳せず。居る所一年に聚を成し、二年に邑を成し、三年に都を成す。堯之が聰明を聞き、於畎畝に擧げ、妻すに二女を以てす。娥黄・女英と曰ふ。于嬀汭に釐め降す。遂に堯に相として政を攝す。

｜帝舜（ていしゆん）｜有虞氏（いうぐし）ハ、｜姚姓（えうせい）ナリ。｜或（あるひ）ハ｜曰（いは）ク、｜名（な）ハ｜重華（ちようくわ）ナリト。｜瞽瞍（こそう）｜之（の）｜子（こ）ニシテ、｜顓頊（せんぎよく）六｜世（せい）ノ｜孫（そん）｜也（なり）。｜父（ちち）｜惑（まど）ヒ 2( ｜後妻（こうさい）ニ )1 、｜愛（あい）シ 2( ｜少子（せうし）｜象（しやう）ヲ )1 、｜常（つね）ニ｜欲（ほつ）ス^｜殺（ころ）サント^｜舜（しゆん）ヲ。｜舜（しゆん）｜盡（つく）シ 2( ｜孝悌（かうてい）｜之（の）｜道（みち）ヲ )1 、｜烝烝（じようじよう）トシテ｜乂（をさ）メテ｜不（ざ）ラシム^｜格（いた）ラ^｜姦（かん）ニ。｜耕（たかへ）セバ 2( ｜歴山（れきざん）ニ )1 、｜民（たみ）｜皆（みな）｜讓（ゆづ）ル^｜畔（はん）ヲ。｜漁（ぎよ）スレバ 2( ｜雷澤（らいたく）ニ )1 、｜人（ひと）｜皆（みな）｜讓（ゆづ）ル^｜居（きよ）ヲ。｜陶（たう）スレバ 2( ｜河濱（かひん）ニ )1 、｜器（き）｜不（ず） 2( ｜苦窳（こゆ）セ )1 。｜所（ところ）^｜居（を）ル一｜年（ねん）ニ｜成（な）シ^｜聚（しゆう）ヲ、二｜年（ねん）ニ｜成（な）シ^｜邑（いふ）ヲ、三｜年（ねん）ニ｜成（な）ス^｜都（と）ヲ。｜堯（げう）｜聞（き）キ 2( ｜之（これ）ガ｜聰明（そうめい）ヲ )1 、｜擧（あ）ゲ 2( 於｜畎畝（けんぽ）ニ )1 、｜妻（めあは）スニ｜以（もつ）テス 2( 二｜女（ぢよ）ヲ )1 。｜曰（い）フ 2( ｜娥黄（がくわう）・｜女英（ぢよえい）ト )1 。｜釐（をさ）メ- 2( ｜降（くだ）ス于｜嬀汭（ぎぜい）ニ )1 。｜遂（つひ）ニ｜相（しやう）トシテ^｜堯（げう）ニ｜攝（せつ）ス^｜政（まつりごと）ヲ。

注釈

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十八史略 — 抜萃 —

太古（たいこ）

三皇（さんくわう）

太昊（たいかう）伏羲氏（ふくきし）

其一 始造二書契一 （一）

其二 始作二笙簧一 （二）

炎帝（えんてい）神農氏（しんのうし） （三）

黄帝（くわうてい）軒轅氏（けんえんし）

其一 作二舟車一以濟レ不レ通 （四）

其二 華胥之國 （五）