内外古今 逸話文庫 第一編
武事
○ 十字勳章と九十七金
一千八百七十年
乃至七十一年、有名なる獨佛戰爭に際し、
ウイルヘルム帝はビスマルク氏に命令を
與へ、
出格の功績を
顯したる兵卒には、鐵十字勳章を
下附すべき
旨の
委任ありたるが、
恰も此勳章を受くべき功績を顯したる一兵卒ありたれば、氏は
其に鐵十字勳章を下附せんと思ひ、
其之を下附するの前に
當て、試みに其兵卒に向ひ、
汝の功勞を賞揚するが
爲め、
茲に鐵十字勳章を下附する
筈なれ
共、
他日汝が金錢に
差支へたる時の一助にもなるべければ、汝は鐵十字勳章の
代りに一百
ターレル 一ターレルは我五十錢程に當る を受くることを願はずや、二者汝の
好に
任かせて下附すべしと云ひたれば、其兵卒は
暫時思案したるの後、鐵十字勳章の
代價は
凡そ
幾何程のものなるやと問ひたるを
以て、氏は之に
對へ、勳章の代價は三ターレル
内外なりと云へり、此時兵卒は
聲に應じ、
然らば其鐵十字勳章と九十七「ターレル」を下附せられたしと
請ひたれば、氏は此兵卒の
猾才と頓智を驚異し、笑ひながら此二物を
併與して、他日此事を皇帝に
奏上せり