逸話文庫:1:武事:21
△ ◀ ▶ ?

内外古今 逸話文庫 第一編

武事

○ 秀吉佐久間の謀(はかりごと)を挫(くじ)く

佐久間玄蕃(げんば)盛政(もりまさ)、柳瀨(やながせ)にて中川淸秀を討取(うちと)りける時、秀吉長濱より一騎がけにて來たられけり、志津ヶ嶽(しづがたけ)に到れば日暮(くれ)ぬ、陣(ぢん)の相去る事二里許(ばかり)なり、盛政使を以て早くも軍を寄せられ候(さうらふ)、相待ちて候ほどに、夜明けば矢合(やあはせ)仕(つかまつ)るべしとぞ言送(いひおく)りける、秀吉聞きて、是(これ)より申さんにゆゝしくも承(うけたまは)り候、明日いさぎよく軍(いくさ)をとげ候べしと、使を返して後、吾に怠(おこた)らせ夜討(ようち)せんとの事ならん、遠き異國の張良(ちやうりよう)は志(し)らず、我れを欺(たばか)るべき者、日本に有りとは覺えずとて、野にも山にもかがりを透間(すきま)なく焚(たき)て白日の如(ごと)し、佐久間は敵(かたき)人馬(じんば)の行程(かうてい)を急ぎ疲れたる處(ところ)へ、すかりと押寄(おしよせ)打破らんとおもひけるに、秀吉の謀(はかりごと)に夜討の支度(したく)空(むな)しく成りにけり  (同上)