逸話文庫:1:文藝:40
△ ◀ ▶ ?

内外古今 逸話文庫 第一編

文藝

○ 吉益東洞獨(ひと)り村井椿壽(ちんじゆ)が歸るを送る

村井椿壽は熊本の町醫(まちゐ)なるが、京師(けいし)に東洞あることを聞き、獨歩(どくほ)して京に至り謁(えつ)をその門に執(と)る、日々に東洞と談(だん)ずること凡(およそ)五十日、門人皆その狂狷(きやうけん)不遜(ふそん)に駭(おどろ)く、時に東洞の門人甚(はなは)だ多く、世の尊信も亦(また)尋常(じんじやう)ならず、その家に來(きた)るものは貴賤とも迎送(げいそう)することなし、然るに椿壽の歸るときは、東洞伏見(ふしみ)の舟中(しうちう)までこれを送り曰(いは)く、吾道(わがみち)の託(たくし)偏(ひとへ)に子(し)に在りと、泪(なみだ)を揮(ふる)つて別る