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廻文俳諧百韻

石田未得
(大田南畝原撰、早川純三郎編『三十輻(續三十輻)』第二 卷之十 國書刊行會 1917.5.25
※ 原文には作者名表記なし。解題による。〔原注〕(*入力者注記)縦書き用

  緖言   本文   作者跋   跋(松永貞徳)   跋(蕪房)
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(緖言より)

一、廻文俳諧百韻一卷 石田未得撰。偶〃意の晦澀なるものあれども、名吟も少からず。廻文といへば一首と雖も容易の物にあらざるに、百韻をつらねたるは、著者の俳道に於ける鬼才なるを見るべし。末に附せる、貞德が返簡の月日に正保二年(*1645年)閏五月朔日とあれば、廻文俳諧も其以前の事なるべし。石田未得の詠なりとは、南畝に謄寫して送りたる蕪房の發見にて、吾吟我集(*ごぎんわがしゅう─石田未得の狂歌集。1649年。)の中に「むせうつり」の一首見えたるによるが如し。「我等ひさしく」の一章に不明の箇所多し。かぶら房の附記に、「語路のうたがはしきをも本書のまゝにうつし侍る」とあるは、此等をや云ふならむか。
(大正六年五月 國書刊行會識)


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續三十輻 卷之十一

廻文俳諧百韻

001
ながめしは 野ぎくのくきの はじめかな 
002
さくはなはさく 草ばなはくさ
003
てりふりき 庭よく夜半に きりふりて 
004
つゞきかりつつ つづりかきつつ
005
しらぬげに かゞしに鹿か にげぬらし 
006
ゆみはりとらむ むらどりはみゆ
007
みなのけい たしなくなした いけのなみ 
008
さゝめくうたひ いたうくめさゝ
009
やがてとる いとまのまどい 門出かや 
010
くぜちの中は はかなのちせく
011
りんきいひ はらたてたらば ひいきむり 
012
きくにぞにくき きくにぞにくき
013
けさみなは くらひてひらく 花見ざけ 
014
さくらのたいを おいたのらくさ
015
そいのるは びん船せん日 はるのいそ 
016
月は出しほの ほし出はきつ
017
しらなみの きりたちたりき のみならし 
018
をばなみだれた たれたみなはを
019
きり/\す つゞりやりつゝ すりきりき 
020
とをのすゝむし しむすゞのおと
021
ひきなきを やすみて見すや おきなきひ 
022
つめしはらくか かぐらはじめつ
023
みやの火よ しらげにけらし よひのやみ 
024
むねんをきつね ねつきをんねむ
025
にげがたく 民のたのみた くだかけに 
026
をるはたやとひ 人やたはるを
027
かつきしに 木かずはすかき にしきづか 
028
かたりとおちた 太刀をとりたか
029
てきはひく つとひにひとつ くひはきて 
030
しろくかるひけ けひるかくろし
031
もいけたは きこえもゑごき はたけいも 
032
名月きた日 火たきつけいめ
033
中もぬき 夜さむさむさよ きぬもがな 
034
まづしきのちは はぢのきしづま
035
二世とぞよ きくたかたくき よそとせに 
036
よはひのひはよ よはひのひはよ
037
むら竹の ひとふしふとひ のけたらむ 
038
けづりきひさく くさひきりつけ
039
まるくつみ つくりはりくつ 水ぐるま 
040
ゑひまなばしに にしはなまいゑ
041
ながさる身 をきつの月を 見るさかな 
042
しはかのきはよ よはき野かはし
043
ぬらしては 山家のかまや はてしらぬ 
044
すはこのやりの のりやのごはず
045
めしにむせ をとがひかどを 膳にしめ 
046
くいにしとけは はけとしにいく
047
かひなきを くすして仕すく おきなひか 
048
日ごろよき人 とひきよろこび
049
もとの名は しれなんなれし はなのとも 
050
のどけきをとか かどをきけとの
051
やめざるは のびたるたびの はるさめや 
052
むまやなやまむ むまやなやまむ
053
きりあひを ひたすらすたひ おひありき 
054
手はのこるまじ しまる碁のはて
055
てれはきつ つゝみは見つゝ 月はれて 
056
うて/\きぬた たぬきてうてう
057
やせさたは しるわんわるし はたさせや 
058
下このめだのみ 身のためのごけ
059
しうもては むなしくしなむ はてもうし
060
むじつつゝしむ むじつつゝしむ
061
やくどしと しあはせはあし 年とくや 
062
たひくつやまひ ひまやつくいた
063
よみはおく 歌道のうたか くをは見よ 
064
れき/\の詩も もじのきれ/〃\
065
にしきとく 手品をなして くときしに 
066
つれなきをんな なんをきなれつ
067
かどたちも まつ夜のよづま もちたとか 
068
ふとでゝいきつ 月いでゝとふ
069
ねぶりしは 霧のまのりき はしり舟 
070
けさのひえこそ そこゑひのさけ
071
うへのきぬ はだかにかたは ぬぎのへう 
072
いしひきはなつ つなはきびしい
073
しつくりと をいへのへいを とりくづし 
074
大工つくろひ ひろくつくいた
075
けかをしは くやむもむやく はしをかけ 
076
はかまやぬらし しらぬやまがは
077
よ所みなは はくらくらくは 花見ぞよ 
078
むめかとのみか 神のとがめむ
079
きゆるとも はれじとしれば もどるゆき 
080
すみやくおとこ ことをくやみず
081
くふあぢも かたくてくたか もちあふぐ 
082
につ坂おいて 體をがさつに
083
かけ川に のりむまむりの 庭がけか 
084
みかたはのきし しきのはたかみ
085
いろよくば たゞとれとたゞ はくよろい 
086
むら/\にさく くさにらむらむ
087
しべふとい 萩をもおぎは いとふべし(*原文「いといふべし」) 
088
しらつゆおきつ 月をゆつらし
089
めあるゝは かきねのねぎか はるゝあめ 
090
ひかであみほし しほみあてがひ
091
たかまりは ぬはぬやぬはぬ はりまがた 
092
くつたびもなし しなもひたつく
093
つめたきは ゆきこそみゆき(*ママ) はきためつ 
094
ふゆはしばしまま しばしはゆふ
095
むらぐせか やま人ひまや かせぐらむ 
096
もとめたのりの のりのためとも
097
けさはりし かたびらひたか しりはさげ 
098
そめやはできて できてはやめぞ
099
しなもろい はつ花はつは いろもなし 
100
せがるはきつき きつきはるかぜ
附墨五十
内二十八


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此一卷は、去年の秋雨中つれ/〃\に、枕のふし物(*連歌・俳諧の物名)に廻文をおもひより、あらぬさまのことを百韻につゞりて、
 よみおくるともとしかきしはいかいか
   いはじきかじともどる句をみよ(*廻文狂歌)
 我等ひさしき日ふたりに見せてと〔「と」マヽ〕口がためしてすておきしかば〔「かば」マヽ〕、何をてならふしるしもあらず。かばかりのものゝすへ、いなか〔「か」マヽ〕よる事にて候。いさゝかも分心なきまゝに、しのぶといへども、ほどとをからぬなれば、常には噂申暮すのみ。不計都へ罷上り、爲尊意候。廻文ともに外見をもわきまへず、
 むせうつりたがはなひかんていとくと
   いでむかひなばかたりつうぜん


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去年一卷廻文のはいかい、いづくともなくもて來りし。上古の歌仙さへかたき事にて、廻文のはいかいまれ/\に候を、當時かくのごとく自由自在作りつづけられ候。丸がごときおとろへたる氣りよくにては、聞とゞけ申ことさへ不成候。さても/\き妙也。此作意にて常ていのはいかいうけ給りたく候。當時の御返事も眼病ゆへ不罷成まゝ、もんてい衆へ賴候てかと、心にはからひ候へども、爰元にこれなく、めんぼくなく候。御上洛候はば見參候て、御禮申べく候。あなかしこ/\。
正保二年(*1645年)
閏五月朔日
長頭丸(*松永貞徳)


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此廻文の俳諧百韻は、いづれの人の作ともしらで年ひさしくもちつたへ侍りしに、日外吾吟我集といへる狂歌集を一覽し侍るに、それが中に貞德の翁のもとへ送りぬとありて、此おくなる廻文の狂歌あるに、はじめて此作者のぬしなることをしり侍りき。こたび東の杏花園の大人(*蜀山人大田南畝)よりうつしてよとあるに、匕とる間に/\禿たるふんでを馳らせつゝ、語路のまぎらはしきをも本書のまゝにうつしはべる。はたその筆のあまりをもて字餘りながらも、
 みとくと見句よことの葉のとこ(*徳)目とめ
   ことの葉のとこよく見とくと見(*吉野歌のもじりか。)
 かくなむこぢつけて、爰に書そへ侍るものは、浪花寺のほとりにへたのなをうりたがるかぶら房にて候。

 かくうちも句の面白さおかしさに
   臍までひつくりかへる廻文
   于時享保二(*1717年)壬戌年孟春望
    今朝のながめを爰に、
 松竹や注連のけぶりは煙りても
   めでたきものとあふぎてぞ見る
(*二首作者未詳。蕪房の所持していた写本の筆写者によるものか。)

(廻文俳諧百韻<了>)

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